抵当権設定登記をする前に被担保債権の一部が弁済されても、債権者はその債権全額について右登録手続を請求することができる。
被担保債権の一部弁済とその抵当権設定登記。
民法369条1項,不動産登記法117条
判旨
抵当権設定契約に基づき登記を請求する場合、契約後に被担保債権の一部が弁済により消滅したとしても、登記簿上の特定のために債権全額を被担保債権とする設定登記手続を請求できる。
問題の所在(論点)
抵当権設定契約締結後、登記請求訴訟の口頭弁論終結時までに被担保債権の一部が弁済により消滅した場合であっても、債権者は当初の債権全額を内容とする抵当権設定登記手続を請求することができるか。
規範
抵当権設定登記手続の請求が特定の抵当権設定契約に基づく履行を求めるものである場合、その契約後に被担保債権の一部について弁済があったとしても、登記簿上に表示すべき被担保債権を特定する趣旨から、債権者は契約時の債権全額および利息について設定登記を請求し得る。ただし、実体法上の効力としては、残存債権の範囲においてのみ優先弁済を受け得るにとどまる。
重要事実
上告人(抵当権設定者)と被上告人ら(抵当権者)との間で、債権全額を被担保債権とする抵当権設定契約が締結された。その後、被上告人らの債権の一部について弁済がなされた。しかし、被上告人らは依然として当初の債権全額を被担保債権とする抵当権設定登記手続の履行を求めて提訴した。これに対し、上告人は一部弁済による債権の消滅を理由に、全額の登記請求は認められないと争った。
事件番号: 昭和35(オ)607 / 裁判年月日: 昭和37年6月12日 / 結論: 棄却
抵当権設定契約に基づく抵当権設定登記手続請求事件において、原告は抵当権の被担保債権は、抵当権設定の日に被告に貸し付けた貸付金債権であると主張したのに対し、裁判所が右被担保債権は右設定の日より三、四箇月前に訴外人と被告との間に成立した、金銭消費貸借契約につき、右設定の日に債権者を原告とする更改契約がなされたうえ、原告と被…
あてはめ
本件における抵当権設定登記手続の請求は、特定の債権額を目的とする抵当権設定契約に基づく履行請求である。登記は契約の内容を公示するものであり、登記簿上に表示すべき被担保債権を特定する必要がある。したがって、一部弁済の事実があっても、契約に基づき特定された債権額全額を登記内容として請求することは、手続上正当であるといえる。もっとも、一部弁済後の残存債権額が実体的な担保範囲を画定するため、債権者が実際に優先弁済を受けられるのは残存債権の限度であると解される。
結論
一部弁済にかかわらず、債権者は債権全額および利息について抵当権設定登記手続を請求することができる。
実務上の射程
登記請求訴訟において、被告(債務者)側から「一部弁済により債権が縮減した」との抗弁がなされた際の反論として機能する。実体法上の附随性と登記手続上の特定を切り離して考える枠組みとして重要である。
事件番号: 昭和39(オ)1367 / 裁判年月日: 昭和40年12月3日 / 結論: 棄却
一 債権担保の機能を営む代物弁済の予約がされた後、被担保債権の一部が弁済されても、反対の特約または権利の濫用と認められるような特段の事由がないかぎり、当該予約完結権の行使は妨げられない。 二 前項の場合において、予約完結権を行使した債権者は、特段の事情がないかぎり、一部弁済としてすでに受領した金員を債務者に返還する義務…
事件番号: 昭和36(オ)405 / 裁判年月日: 昭和37年3月13日 / 結論: 棄却
貸金業を営む有限会社が営業行為としてなした金銭消費貸借は、商法施行法第一一七条(昭和二九年法律第一〇〇号による削除前)にいう商事にあたる。
事件番号: 昭和35(オ)489 / 裁判年月日: 昭和37年1月19日 / 結論: 棄却
抵当権設定登記手続請求事件において、被担保債権の弁済期が昭和二八年一〇月二〇日と主張されたのに、これを同二九年二月二五日と認定して請求を認容しても、当事者の申し立てない事項について判決したことにはならない。