手形を振出人に預託したまま同人に対してなした手形金支払の訴訟上の請求が正当として是認された事例。
判旨
手形債務者の要請に応じて手形を預託したため、債権者が手形を非所持となった場合、債務者は債権者の所持人たる資格を争って支払を拒絶することはできない。
問題の所在(論点)
手形債権者が債務者の要請により手形を預託し、占有を失っている場合、手形の不呈示(非所持)を理由とする支払拒絶が認められるか。
規範
手形法上の原則として、手形金請求には手形の呈示(所持)を要するが、債務者の要請に基づき、支払方法の協議等の便宜のために手形を預託したという特段の事情がある場合には、信義則上、債務者は債権者の非所持を理由として支払を拒絶することはできない。
重要事実
約束手形の取立委任を受けたDが、債務者である上告人の代理人Eと交渉した際、内入弁済として物品の交付を受けた。その際、Eから「残額の支払方法を講ずる必要があるため手形を暫時預けておいてほしい」と要請された。Dはこれを承諾し、預り証を徴した上で本件手形をEに預託して帰宅した。その後、被上告会社が手形を所持しない状態で手形金請求を行ったところ、上告人が非所持を理由に支払を拒絶した。
あてはめ
本件において、Dが手形を手放したのは、債務者側の代理人であるE自らの要請によるものである。しかも、その目的は残額の支払方法を検討するという債務者の便宜のためであり、預り証の交付によって返還が予定されている。このような経緯で手形を占有することになった債務者側が、自ら預かったことを棚に上げて「手形を持っていないから支払わない」と主張することは、誠実な取引関係に照らし許容されない。したがって、上告人は被上告会社の所持人たる資格を争うことはできないと解される。
結論
被上告会社は手形を所持していなくても、上告人に対し手形金の支払を請求することができ、上告人はこれを拒絶できない。
実務上の射程
手形金請求における「呈示」の要件が、債務者の信義則違反(禁反言)によって免除される場面を示す。実務上、預り証の有無や預託に至る経緯(債務者側からの積極的働きかけがあったか等)が、この理を適用する際の重要な判断要素となる。
事件番号: 昭和35(オ)533 / 裁判年月日: 昭和38年1月30日 / 結論: その他
手形の呈示を伴わない催告にも、手形債権の時効を中断する効力がある。