振出によりすでに受取人の所持に帰した約束手形に共同振出人として署名した者は、あらためてこれを受取人に交付する行為がなくても、手形振出人としての債務を負担する。
時を異にする手形の共同振出と再度の交付の要否。
手形法9条1項,手形法78条1項
判旨
既に受取人の所持に属している手形に、第三者が後から共同振出人として振出署名をなした場合、改めて交付の行為をなさずとも、当該署名者は手形債務を負担する。
問題の所在(論点)
既に受取人が所持している手形に、後から振出人として署名した場合において、手形上の権利を発生させるために「交付」という新たな行為が必要か(手形理論における交付欠缺の成否)。
規範
手形債務の成立には、原則として手形上への署名と受取人への交付が必要とされるが、既に受取人が占有している手形に後から署名する場合には、改めて交付の手続を踏まなくても、署名によって手形債務は有効に成立する。
重要事実
被上告人はE社に預託金を預けており、E社はこれに対し本件約束手形を振り出して被上告人らに交付した。その後、E社の経営が行き詰まったため、被上告人はE社の支店長であった上告人に対し、共同振出人となるよう要求した。上告人はこれを承諾し、既に被上告人らの占有下にある本件手形の振出署名欄に、E社の署名と並べて自己の署名をなした。その後、被上告人は手形全件を有効に所持するに至ったが、上告人は交付の欠如を理由に手形債務の成立を争った。
あてはめ
本件において、上告人が署名をなした時点で、本件手形は既に受取人(被上告人ら)の所持に属していた。手形行為が成立するためには交付が必要であるが、既に相手方が手形を占有している状況下で署名が付されたのであれば、あえて形式的に一度手形を回収し、再度手渡すという交付行為を繰り返す実益はない。したがって、署名がなされた時点で交付に相当する合意があったと解すべきであり、署名行為をもって直ちに共同振出人としての手形債務を負担するに至ったと評価できる。
結論
改めて交付の行為をなさなくても、上告人は共同振出人として手形債務を負担する。したがって、上告人の請求は認められない。
実務上の射程
手形理論における作成説・発行説の対立にかかわらず、既に受取人の占有がある場合には「交付」を擬制ないし簡略化できるとする判断。後から共同振出人や裏書人が追加される実務において、物理的な交付の有無を厳格に問わないという射程を持つ。
事件番号: 昭和32(オ)732 / 裁判年月日: 昭和33年10月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】手形作成者が交付前に一部の記載(「立会人」の文字等)を抹消することは有効であり、その余の署名捺印の性質は、実質的な記載の趣旨に基づき判断される。 第1 事案の概要:本件手形には、当初「立会人」との記載があったが、手形の作成者によって交付前に当該記載が抹消された。上告人らの署名捺印は手形上に残されて…