甲が約束手形の所持人であつて真の債権者であることを振出人乙が知つている場合に、甲が満期当日支払場所において乙から内金の支払を受け、手形金残額については見返りとして訴外人振出の手形を受け取つた事実がある以上、右手形については当事者間に手形の呈示があつたと同一の効力を生じたものと認めるのが相当である。
手形の呈示があつたと同一の効力を生じたものと認められる一場合。
商法517条,手形法77条,手形法38条
判旨
手形債務者が所持人を真の債権者と認識し、満期に支払場所で手形金の一部を支払い、残額について代わりの手形を交付した場合には、現実に手形が提示されていなくとも、提示があったのと同一の効力が生じる。
問題の所在(論点)
手形の所持人が現実に手形を提示して支払を求めていない場合であっても、満期における当事者間のやり取りによって、手形の呈示があったのと同一の効力(履行遅滞の発生等)が認められるか。
規範
手形の呈示が現実になされていない場合であっても、満期において、債務者が所持人を真の債権者であると認識し、かつ、支払場所において手形債務の履行に関する行為(一部弁済や代物弁済等)が行われたときは、当事者間に手形の呈示があったのと同一の効力を生ずる。
重要事実
手形の所持人(被上告人)が満期当日、支払場所において振出人(上告人)から内金8万円の支払を受けた。その際、手形金残額については、見返りとして第三者振出の手形を受領した。上告人は被上告人が本件手形の所持人であり、真の債権者であることを認識していたが、後に手形の有効な提示がなかったとして履行遅滞の責任を争った。
あてはめ
本件では、債務者である上告人は被上告人を真の債権者と認識した上で、満期当日に支払場所において一部支払を行い、残額についても代替の手形を交付するという債務履行の態度を示している。このような状況下では、あえて現実に手形を示すまでもなく、当事者間において手形の呈示があったのと同等の実質を備えているといえる。
結論
本件手形については当事者間に手形の呈示があったのと同一の効力が生じるため、振出人は履行遅滞の責任を免れない。
実務上の射程
手形の提示を要件とする権利行使(履行遅滞による遅延損害金請求や遡求権の保全)において、債務者の認識や支払行為を理由として提示の欠如を補完する法理として活用できる。提示免除特約がない場合でも、信義則的見地から提示があったと擬制する構成に親和性がある。
事件番号: 昭和28(オ)1277 / 裁判年月日: 昭和29年3月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】手形振出人が手形債務を負担しない旨の約定が存在する場合、当該手形の授受の趣旨に照らし、手形債務は発生しない。 第1 事案の概要:上告人が被上告人に対し、本件手形に基づく手形金の支払を求めて提訴した。これに対し、被上告人は「手形債務を負担しない約定である」旨の抗弁を提出し、原審もこの事実を認定した。…