判決主文の明白な誤記は更正決定によつて補正することができるから、右判決に対する適法な上告理由とならないとされた事例。
判旨
建物所有者およびその居住者は、土地占有の正権原を証明できない限り、土地所有権に基づく建物収去土地明渡請求を拒むことができない。また、建物所有者が土地使用に関する契約を締結していないことが明らかな場合、裁判所は使用権等について釈明権を行使する義務を負わない。
問題の所在(論点)
1. 土地所有権に基づく建物収去土地明渡請求に対し、占有者が正権原を立証できない場合の結論。 2. 当事者間に使用権設定契約が存在しないと認められる場合において、裁判所にさらなる釈明義務(民事訴訟法上の釈明権行使義務)が認められるか。
規範
1. 土地所有権に基づく返還請求に対し、占有者が拒絶するためには、当該土地を占有すべき正権原(民法206条、198条参照)の存在を主張・立証しなければならない。 2. 裁判所が、当事者間に契約関係が一切存在しないとの事実認定に達した場合、その余の具体的権利(使用貸借等)の有無について釈明すべき義務はない。
重要事実
土地所有者(被上告人)が、地上建物を買い受け所有するA1、および同建物に居住するA2、A3に対し、所有権に基づき建物の収去と土地の明渡しを求めた。A1らは、第三者Dが真の建物所有者であり、自分たちはDの履行補助者にすぎないこと、またDが土地使用権を有していることなどを主張し、原審がそれらの点について釈明を行わなかったことを違法であると主張して上告した。なお、原審はA1が建物所有者として本件土地を占有していることを当事者間に争いのない事実として確定していた。
あてはめ
1. 本件土地の占有について、上告人らが土地を占有すべき正権原を有することを認めることができない以上、被上告人の請求は正当として認容されるべきである。 2. 上告人A1が建物の所有名義人にすぎず、真の所有者Dの履行補助者であるとの主張は、原審が確定した「A1が建物を所有することで土地を占有している」という事実に反する。 3. 原審において、A1と被上告人との間に本件土地の使用につき何ら契約も締結されなかったと認定されている以上、それ以上に他の使用権の有無について釈明をする余地も必要もなかったといえる。
事件番号: 昭和35(オ)460 / 裁判年月日: 昭和35年9月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法188条による権利の推定は、占有者とその占有の伝来した前主との間には及ばない。したがって、他人の所有地を占有する者が正権原(賃借権等)を主張する場合、その立証責任は占有者側にある。 第1 事案の概要:被上告人(土地所有者)が上告人(占有者)に対し、所有権に基づき建物の収去と土地の明渡しを請求し…
結論
上告棄却。正権原のない占有者に対し、所有権に基づく建物収去土地明渡請求を認容した原判決は正当であり、釈明権の行使を怠った等の違法も認められない。
実務上の射程
物権的請求権に対する抗弁として「占有する権利」が構成できない場合の帰結を確認する。また、所有権の帰属や契約の存否といった主要事実について心証が固まっている場合に、釈明義務が限定される実務上の指針を示すものである。
事件番号: 昭和36(オ)665 / 裁判年月日: 昭和37年12月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】地上建物に登記のない土地賃貸借において、賃借人は土地の譲受人に対して賃借権を対抗できず、また、建物収去土地明渡請求が社会生活上不当な結果を招くとしても、直ちに権利濫用(民法1条)には当たらない。 第1 事案の概要:土地賃借人である上告人は、本件土地上に建物(工作物)を所有して営業(五階百貨店)を行…
事件番号: 昭和33(オ)683 / 裁判年月日: 昭和35年3月1日 / 結論: 棄却
他人の不動産を占有する正権原があるとの主張については、その主張をする者に立証責任があると解すべきである。
事件番号: 昭和39(オ)395 / 裁判年月日: 昭和39年11月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】占有権原がない建物の譲受人に対し、土地所有者が建物の撤去及び土地の明渡しを求めることは、特段の事情がない限り権利の濫用には当たらない。 第1 事案の概要:Dは、厚生省の出張所に勤務しており、上司の了解を得て本件土地上に本件建物を所有・使用していた。しかし、土地所有者である被上告人は、Dに対し当初か…
事件番号: 昭和33(オ)717 / 裁判年月日: 昭和35年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地をその上に建物を所有して占有する者は、民法188条による権利適法推定を受けないため、土地の占有権原として使用貸借の成立を主張する者がその挙証責任を負う。 第1 事案の概要:上告人は、本件土地上に建物を所有して占有していた。被上告人(土地所有者)からの土地明け渡し請求に対し、上告人は当該土地の使…