被後見人の財産等を後見人が譲り受ける行為につき、後見監督人が被後見人を代理した場合または親族会の同意があつた場合でも、被後見人は、民法第八六六条による取消権を失わない。
後見監督人が被後見人を代理した場合と民法第八六六条による取消権の成否。
民法866条
判旨
後見人が被後見人の財産を譲り受ける等の行為(民法866条1項)において、後見監督人が被後見人を代理して契約を成立させた場合や、親族会の同意(現行法下の家庭裁判所の許可等に相当)を得た場合であっても、同条による取消権は否定されない。
問題の所在(論点)
後見人が被後見人の財産を譲り受ける等の行為において、後見監督人が被後見人を代理した場合や、親族会の同意がある場合でも、民法866条1項に基づく取消権を認めることができるか。
規範
民法866条1項は、後見人と被後見人との間の利益相反を防止し、被後見人の保護を図る趣旨の規定である。したがって、形式的に後見監督人が代理して契約を成立させた場合や、客観的な妥当性を担保するための機関(旧親族会等)の同意を経た場合であっても、同条の適用は排除されず、被後見人は当該行為を取り消すことができる。
重要事実
後見人が被後見人の財産を譲り受ける行為について争われた。この際、後見監督人が被後見人を代理して当該契約を成立させており、かつ当時の親族会の同意も得られていた。上告人は、これらの事情がある以上、民法866条(旧930条)の禁止する行為には当たらず、取消権は発生しないと主張した。
事件番号: 昭和36(オ)35 / 裁判年月日: 昭和39年1月21日 / 結論: 棄却
旧民法第九三〇条第一項の取消の相手方は最初の法律行為の相手方及びその包括承継人であると解するのを相当とするから、包括承継人に対する取消の意思表示は有効である。
あてはめ
民法866条1項の禁止は、後見人の地位を利用した不正の防止という実質的目的に基づくものである。後見監督人の代理は形式的に利益相反を回避しているように見えるが、後見人と被後見人の関係性から生じる不当な影響力や情報の非対称性は解消されない。また、親族会の同意についても、同条が定める禁止の効力を当然に失わせる根拠にはならない。したがって、これらの事情があっても同条の適用範囲に含まれると解すべきである。
結論
後見監督人の代理や親族会の同意があっても、民法866条に基づき被後見人は当該行為を取り消すことができる。
実務上の射程
利益相反取引に関する民法826条等の類推適用場面ではなく、後見人の一般的禁止規定としての866条の射程を明確にした判例である。答案上は、特別代理人等の関与があれば有効になるとする主張を封じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和36(オ)50 / 裁判年月日: 昭和38年8月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代理人が本人から授与された権限(本件では10万円の保証および抵当権設定等)を超えて、より広範な内容の契約(30万円の根抵当権設定)を締結した場合、相手方が代理権を有すると信ずべき正当な理由があるときは、民法110条の表見代理が成立する。 第1 事案の概要:上告人はDに対し、10万円の範囲での借用債…
事件番号: 昭和36(オ)78 / 裁判年月日: 昭和38年1月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の表見代理が成立するためには、相手方が代理権があると信じ、かつ信ずるにつき正当の事由があることを具体的に主張する必要があり、単に代理権があると信じていたという事実の主張のみでは足りない。 第1 事案の概要:上告人らは、被上告人B1がB2を代理して消費貸借契約や抵当権設定、代物弁済予約を…
事件番号: 昭和38(オ)565 / 裁判年月日: 昭和39年9月18日 / 結論: 棄却
代理権を有する者のなした権限外の行為がその代理権となんら関係のない場合でも、相手方において代理人に権限があると信ずるに足る正当な理由があるときには、民法第一一〇条の適用がある。
事件番号: 昭和36(オ)1013 / 裁判年月日: 昭和37年2月27日 / 結論: 棄却
法定代理人と本人との利益相反の有無は、もつぱら、その行為自体を観察して判断すべきであつて、当該借入金の用途が何であるかというような当該契約に至つた縁由を考慮して判断すべきではない。