甲女が乙男の妾であり、乙男は水商売を営む者である事情のもとでも、判示のごとく甲女が実情よりもはるかに節操のない行状をしたかのように乙男に精神的苦痛を与えた丙は、それが故意過失に出たものであるかぎり、不法行為として損害賠償義務を甲女に対して負わねばならない。
節操のない行状をしたと虚偽の事実を告げられたことによる精神的苦痛につき不法による損害賠償請求権があるとされた事例
民法710条
判旨
特定の事実の実情よりも著しく節操のない行状をなしたかのように虚偽の事実を告知し、相手方に精神的苦痛を与えた場合は、故意または過失がある限り、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償義務を負う。
問題の所在(論点)
被害者が愛人関係(妾)にある等の属性を有する場合であっても、虚偽の事実を告知してその実情以上に節操がないかのように印象づける行為が、民法709条の不法行為を構成するか。
規範
不法行為(民法709条)の成立には、権利または法律上保護される利益の侵害が必要である。名誉や社会的評価、あるいはそれに基づく精神的平穏を害するような、客観的事実に反する虚偽の事実を第三者に告知し、他者の社会的評価を低下させ、または実情を超えた精神的苦痛を与えた場合には、不法行為上の責任を負うべきである。
重要事実
上告人は、訴外Dに対し、電話で「隣で見ていると被上告人は毎日男を引張り込んで寝ている」という事実を伝えた。しかし、この事実は虚偽であった。被上告人はDの妾であり、Dは水商売を営む者であったが、上告人が伝えた内容は被上告人の実際の実情よりもはるかに節操のない行状をなしたかのように装うものであった。被上告人はこれにより精神的苦痛を受けたとして、損害賠償を求めた。
あてはめ
上告人は、被上告人が「毎日男を引張り込んで寝ている」という虚偽の事実をあえて第三者に伝えており、これは被上告人の名誉を毀損し、精神的苦痛を与える行為である。被上告人がDの妾であったという事情があったとしても、上告人の告げた内容は「実情よりも遙かに節操のない行状」をなしたかのように仮装するものであり、社会的評価を不当に低下させるものといえる。したがって、かかる虚偽事実の告知は被上告人の法的保護に値する利益を侵害しており、故意または過失がある限り不法行為に該当する。
結論
被上告人の実情よりも著しく節操のない虚偽事実を告知した行為は、被上告人に精神的苦痛を与える不法行為を構成し、上告人は損害賠償義務を負う。
実務上の射程
本判決は、被害者の属性(妾であること等)を理由に直ちに不法行為の成立が否定されるものではないことを示している。具体的事実が虚偽であり、かつそれが実情を著しく誇張して評価を低下させるものであれば、精神的苦痛を理由とする慰謝料請求を認める判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和24(オ)258 / 裁判年月日: 昭和25年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不貞行為によって婚姻関係を破綻させた第三者に対し、精神的苦痛に対する慰謝料請求が認められることを前提とし、事実認定や証拠採用の適否は事実審の合理的な裁量に属する。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人の妻であるDと数回にわたり情交を重ねた。その結果、Dは妊娠し、昭和21年1月16日に女児を出産する…