判旨
控訴状の「事件の関係欄」に記載された事実上の主張が口頭弁論で陳述され、かつ撤回・訂正されていない場合には、裁判所は当該主張について判断を下す義務があり、これを主張がないものとして排斥することは判断遺脱の違法にあたる。
問題の所在(論点)
訴状や控訴状の付随的記載(事件の関係欄等)として示された事実上の主張が、口頭弁論において陳述された場合、裁判所はこれを独立した主張として取り扱い、判断を示す義務を負うか。
規範
民事訴訟法上の弁論主義に基づき、当事者が訴状や控訴状の記載事項を口頭弁論において陳述した場合には、当該事実は有効な主張として裁判の基礎としなければならない。裁判所がこれを確認せず、主張がなされていないと判断することは、当事者の主張に対する判断遺脱(審理不尽・理由不備)となる。
重要事実
上告人(控訴人)は、被上告人(被控訴人)からの賃料請求に対し、反対債権による相殺の意思表示をした旨を控訴状の「事件の関係欄」に記載した。原審の第一回口頭弁論期日において、当該控訴状の内容が陳述されたが、原審は上告人が相殺の主張をしていないとして、これを判断の対象から外した上で判決を下した。なお、記録上、当該主張が訂正または撤回された形跡は認められなかった。
あてはめ
本件において、上告人は控訴状に相殺の事実を記載し、かつ原審の口頭弁論においてこれを陳述している。この陳述により、相殺の主張は弁論の内容として有効に提出されたといえる。その後、当該主張が撤回等された事実もない以上、裁判所は当該主張の当否について審理・判断すべきであった。それにもかかわらず、「主張立証がない」として排斥した原審の判断は、当事者の主張に対する判断を逸脱したものであり、判決に影響を及ぼす違法があるといえる。
結論
原判決には判断遺脱の違法があるため破棄を免れず、本件をさらに審理させるため原審に差し戻すべきである。
実務上の射程
準備書面だけでなく、訴状や控訴状の付帯的な記載であっても、口頭弁論で陳述されれば裁判所の判断対象になるという「主張の特定」に関する実務上の基本原則を示す。答案上は、裁判所の釈明義務や判断遺脱を論じる際の基礎知識として活用できる。
事件番号: 昭和34(オ)959 / 裁判年月日: 昭和35年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】所有権に基づく建物明渡請求において、原告が自己の所有権と被告の不法占有を主張している場合、判決においてこれらを認める理由を判示すれば足り、特定の契約に関する主張等に対し詳細な判示を欠いても理由不備の違法はない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は、本件係争家屋を自ら建築し所有していると主張し、上…