判旨
自動車運転者は、進路を進行する自転車が10歳11ヶ月の少年の操縦によるものであり、依然として進行を続けることが予見される場合には、相手方が停止することを軽信せず、直ちに急停車して事故を未然に防ぐべき注意義務を負う。
問題の所在(論点)
自動車運転者が、進行してくる自転車の操縦者が年少者であることを認識し、かつその進行が継続している状況下において、相手方が停止することを期待して進行を続けた場合に、注意義務違反(過失)が認められるか。
規範
不法行為法上の過失(民法709条)の有無は、結果発生の予見可能性を前提として、結果回避措置を講ずべき義務を尽くしたか否かにより判断される。特に、事故の相手方が判断能力の不十分な年少者である場合には、相手方が適切な回避行動をとることを期待して漫然と進行を継続することは許されず、相手方の動静に応じた確実な事故回避措置(急停車等)を講じる義務がある。
重要事実
加害者Eは、自動車を運転中、交叉点において10歳11ヶ月の少年Dが操縦する自転車と遭遇した。Dの自転車は依然として進行を続けていたが、Eは自己の自動車が交叉点を通過した後に自転車が通過するものと軽信し、直ちに急停車するなどの措置を講じないまま進行した結果、本件事故が発生した。
あてはめ
本件において、自転車を操縦していたDは当時満10歳11ヶ月の少年にすぎず、交通状況に応じた適切な判断を常に期待できるわけではない。そのDが依然として進行を続けていたのであるから、運転者Eとしては、Dが停止して自車の通過を待つものと軽信すべきではない。Eには、自車がDの進路に進入する前に直ちに急停車して衝突を回避すべき義務があったといえる。しかるに、Eは漫然と自転車が後から通過すると軽信して急停車の処置を怠ったのであるから、注意義務を尽くしたものとは認められない。
結論
運転者Eには本件事故につき過失が認められ、不法行為責任を免れない。したがって、上告は棄却される。
実務上の射程
交通事故における信頼の原則の適用限界を示す事例である。相手方が子供や高齢者など、交通ルールを遵守することを期待しがたい「交通弱者」である場合には、相手方の適切な行動を信頼して進行することを正当化する「信頼の原則」の適用が制限され、運転者に高度な結果回避義務(具体的注視・即時停車義務)が課されることを示す。
事件番号: 昭和40(オ)31 / 裁判年月日: 昭和40年7月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】交差点で右折しようとする車両は、直進する対向車両との衝突を避けるため、一時停止または徐行すべき義務を負う。右折車が無理な追い越しや合図を欠いたまま進行し衝突を招いた場合、事故は専ら右折車の過失に帰せられる。 第1 事案の概要:軽二輪車を運転する上告人Aは、交差点進入時に短時間の右折合図をしたが、そ…