制限時速が四〇粁と定められている幅員約八米、アスファルト全面舗装の国道を走行中の普通貨物自動車(甲車)が、交差点において道路の左側から右折を開始した先行の第二種原動機付自転車(乙車)との衝突を回避しようとしたが、回避し切れず乙車に接触したうえ急激にハンドルを切り急制動をしたため運転の自由を失い約二〇米暴走して第三者に衝突した場合において、甲車が制限速度に違反する高速度で走行していたとしても、乙車が右折に際し合図をしていない等判示の事情のもとにおいては、乙車の右折行為と甲車・第三者の衝突の間には、相当因果関係がある。
他車との衝突後の自動車の暴走と相当因果関係
民法709条
判旨
他車の不適切な右折を回避しようとして暴走した車両が第三者に衝突した場合、その暴走が通常予見可能な範囲内であれば、先行車の右折行為と第三者の損害との間に相当因果関係が認められる。
問題の所在(論点)
先行車両(乙車)の不適切な右折行為と、それを回避しようとした後続車両(甲車)の暴走による第三者の損害との間に、相当因果関係が認められるか。特に、後続車の著しい速度超過等の無謀運転が介在した場合に因果関係が遮断されるかが問題となる。
規範
不法行為法上の相当因果関係(民法709条、715条、自賠法3条)の有無は、当該行為からその結果が生じることが社会通念上、通常予見可能な範囲内にあるか否かによって判断される。他車との接触や回避行動に起因して車両が運転の自由を失い、暴走して第三者に衝突することは、自動車運転者にとって容易に認識し得る事態であり、介在者の過失が著しい場合であっても、それが通常予想できない異常なものでない限り、先行行為との因果関係は遮断されない。
重要事実
原動機付自転車(乙車)を運転するEは、交差点付近で合図をせず、後続車の確認も不十分なまま突然右折を開始した。後続の貨物自動車(甲車)を運転するDは、制限速度を大幅に超過し、追越禁止区間で追越しを行っていたため、乙車との衝突を避けようとして急ハンドル・急制動を行い、運転の自由を失って約20メートル暴走した。その結果、道路端を走行していた上告人の自転車に衝突し負傷させた。
あてはめ
乙車は合図なく急な右折を行っており、これに驚いた後続車が狼狽して操作を誤り、暴走して第三者に衝突することは、交通実態としてしばしば見られる現象である。甲車が制限速度を超過した無謀運転であったことは事実であるが、現場の下り勾配等の状況に鑑みれば、制限速度内であっても同様の暴走が起こり得ないとはいえず、甲車の走行は通常予想もできないほど異常なものとまではいえない。したがって、乙車の運転者にとって、自身の右折行為が原因で後続車が暴走し第三者を巻き込むことは、通常の注意をもってすれば予見可能な範囲内にあるといえる。
結論
乙車の右折行為と、甲車の暴走による上告人の被害との間には相当因果関係が認められる。
実務上の射程
交通事故において介在車両の過失が極めて大きい場合でも、先行行為が暴走のきっかけ(条件)を作り、かつその暴走が一般に予見可能な範囲であれば、先行行為者に全損害の責任を負わせうることを示した。共同不法行為の成立や因果関係の遮断を論じる際の基準となる。
事件番号: 昭和42(オ)1438 / 裁判年月日: 昭和43年9月24日 / 結論: 棄却
交差点において追抜態勢にある自動車運転手は、特別の事情のないかぎり、並進車が交通法規に違反して進路を変えて、突然自車の進路に近寄つてくることまでも予想して、それによつて生ずる事故の発生を未然に防止するため徐行その他避譲措置をとるべき業務上の注意義務はないと解するのが相当である。