加害車両の運行が被害者たる歩行者の予測を裏切るような常軌を逸したものであつて、歩行者が、これによつて危難を避けるべき方法を見失い転倒して受傷するなど、衝突にも比すべき事態によつて傷害を受けた場合には、車両が歩行者に接触しなくても、車両の運行と歩行者の受傷との間に相当因果関係があると解すべきである。
加害車両が被害者たる歩行者に接触しなくても車両の運行と歩行者の受傷との間に相当因果関係があるとされた事例
民法709条
判旨
車両の運行と歩行者の受傷との間に直接の接触がない場合でも、車両の運行が歩行者の予測を裏切るような常軌を逸したものであり、歩行者が危難を避ける方法を見失い転倒したなどの「衝突にも比すべき事態」が生じた場合には、相当因果関係が認められる。
問題の所在(論点)
車両と歩行者との間に直接の接触がない「非接触事故」において、車両の運行と歩行者の負傷との間に相当因果関係を認めることができるか。
規範
不法行為(民法709条)における相当因果関係の存否は、車両が被害者に直接接触した場合に限られない。車両の運行が被害者の予測を裏切るような常軌を逸したものであって、歩行者がこれによって危難を避けるべき方法を見失い転倒して受傷するなど、衝突にも比すべき事態によって傷害が生じた場合には、当該運行と受傷との間に相当因果関係を認めるのが相当である。
重要事実
上告人は、夜間に幅員約3メートルの未舗装路を歩行中、後方の原動機付自転車を避けようと前方右側の仮橋のたもとに避難した。その際、前方から来た被上告人運転の軽二輪車が、運転を誤って上告人が避難しようとしている仮橋に向かって突進・乗り上げた。上告人は、直接の衝突はなかったものの、この突進に驚いて仮橋付近で転倒し、傷害を負った。
あてはめ
本件では、被上告人の軽二輪車が、上告人が避難しようとしている仮橋に向かって突進・乗り上げるという「予測を裏切る常軌を逸した運行」を行っている。これにより、上告人は驚きのあまり危難を避けるべき方法を見失ったとみることができ、さらに現場の足場の悪さという客観的事情が加わって転倒したといえる。このような態様は、直接の接触がないとしても「衝突にも比すべき事態」といえ、被上告人の運行によって受傷が生じたと解する余地がある。
結論
直接の接触がないことのみをもって直ちに因果関係を否定することはできず、被上告人の運行と上告人の受傷との間に相当因果関係が認められる可能性がある。したがって、これを認めなかった原審には法解釈の誤りと審理不尽がある。
実務上の射程
非接触事故における相当因果関係の判断枠組みとして重要。答案では、加害車両の「異常な運行(常軌を逸した態様)」と、被害者の「回避行動の混乱(驚愕・転倒)」の二点を摘示し、それらが「衝突にも比すべき事態」といえるかを論理的に構成する際に用いる。自賠法3条の「運行によって」の解釈においても同様の理が妥当する。
事件番号: 昭和42(オ)1438 / 裁判年月日: 昭和43年9月24日 / 結論: 棄却
交差点において追抜態勢にある自動車運転手は、特別の事情のないかぎり、並進車が交通法規に違反して進路を変えて、突然自車の進路に近寄つてくることまでも予想して、それによつて生ずる事故の発生を未然に防止するため徐行その他避譲措置をとるべき業務上の注意義務はないと解するのが相当である。