原判決は争いある事実を争いないと判示しているが、右事実は第一審が証拠によつて認定した事実と同一であり、右確定事実を基礎としてなされた原判決の違法は判決に影響を及ぼすこと明らかなものとはいえない。
争いある事実を争いないと判示した原判決に判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違背がないとされた事例
民訴法394条,民訴法257条
判旨
当事者間に争いのある事実を「争いのない事実」として扱った違法がある場合でも、第一審判決が証拠に基づき当該事実を適法に認定し、原審でもその証拠につき攻撃防御が尽くされているときは、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反には当たらない。
問題の所在(論点)
裁判所が、実際には争いがある事実を弁論主義に反して「争いのない事実」として認定した誤り(事実摘示の誤りおよび証拠によらない事実認定の違法)がある場合、その違法は常に判決の結論に影響を及ぼすか。
規範
判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反(民訴法旧394条、現312条・318条等参照)があるというためには、手続上の違法が実体的な判断の妥当性に影響を及ぼしていることを要する。裁判所が争いのある事実を自白の成立等により証拠調べを要しない事実として誤認した場合であっても、実質的に証拠に基づきその事実が確定され、かつ当事者間に十分な反論・立証の機会が与えられていたのであれば、その認定自体に合理性がある限り、判決の結論を左右する致命的な瑕疵とはならない。
重要事実
被上告人(原告)は、訴外Dから本件宅地を買い受けたと主張した。これに対し、上告人(被告)は所有権取得登記の事実は認めたが、売買による所有権取得自体は争っていた。しかし、第一審判決は「上告人がこれを認めた」との事実摘示を行い、第二審(原審)も第一審の口頭弁論結果を陳述させた上で、判決理由において「当事者間に争いがない」と判示した。一方で、第一審判決は当該事実につき書証(甲1号証)および人証(証人E、F)を総合して事実認定を行っており、原審においてもこれらの証拠について援用・認否がなされるなど、攻撃防御の手続が経られていた。
事件番号: 昭和35(オ)1037 / 裁判年月日: 昭和36年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】口頭弁論において当事者間に争いのない事実は自白としての効力を有し、裁判所はこれに拘束される。そのため、提出された証拠の記載が自白の内容と矛盾する場合であっても、裁判所は自白に反する事実認定を行うことはできない。 第1 事案の概要:本件土地の所有権について、被上告人の所有に属する事実が第一審判決の事…
あてはめ
原審が争いのある売買の事実を「争いのないもの」と判示した点には、証拠によらないで事実を認定した違法がある。しかし、第一審においては、当該事実について書証や証人の証言といった証拠に基づく事実認定が既になされている。また、原審の審理過程においても、これらの証拠について当事者間で認否や援用といった攻撃防御が尽くされていた。したがって、原審は形式的には「争いなし」としたものの、実質的には第一審が証拠によって認定した事実と同一の事実を判決の基礎としたものといえる。このような関係においては、認定のプロセスに誤りがあっても、認定された事実の内容自体は適法な証拠調べの結果と合致しており、判決の結論に影響を与えるほどの重大な法令違反があるとは認められない。
結論
本件の事実認定の誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反とはいえず、上告は棄却される。
実務上の射程
弁論主義違反(自白の誤認)が直ちに破棄事由になるわけではなく、前審での証拠調べの状況や攻撃防御の尽くされ方を踏まえ、実質的に「判決の結果が変わり得るか」という観点から影響の有無を判断する。答案上、手続的違法を指摘した後に「判決に影響を及ぼすことの明白性」を否定する論法として有用である。
事件番号: 昭和34(オ)205 / 裁判年月日: 昭和35年9月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約の成否について、原判決の事実認定に法令違背はなく、証拠の取捨選択および判断は事実審の裁量に属する事柄であるとして、上告を棄却した。 第1 事案の概要:上告人は、相手方との間で売買契約が成立したと主張したが、原審(第一審および控訴審)は、上告人が主張する経緯の一部はむしろ売買が成立しない経緯…
事件番号: 昭和36(オ)93 / 裁判年月日: 昭和38年10月3日 / 結論: 棄却
原裁判所の裁判が公正妥当を欠くものであるとしても、裁判所において裁判を受ける権利を奪われたものとはいえないから、右裁判が憲法第三二条に違反したとはいえない(昭和二二年(れ)第四八号同二三年五月二六日大法廷判決、刑集二巻五号五一一頁、昭和二三年(れ)第五一二号同二四年三月二三日大法廷判決、刑集三巻三号三五二頁参照)。
事件番号: 昭和34(オ)877 / 裁判年月日: 昭和36年3月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者にとって不利益な事実を認める陳述は裁判上の自白に該当し、その撤回は、自白が真実、かつ、錯誤に基づくことが証明された場合に限られる。 第1 事案の概要:本件土地賃貸借を巡る訴訟において、被告(上告人)は第一審において、本件土地の賃借人および地上建物の所有者が自身ではなく、一審の共同被告(D)で…
事件番号: 昭和36(オ)912 / 裁判年月日: 昭和37年2月22日 / 結論: 棄却
昭和二〇年一〇月頃権利金として四、〇〇〇円を支払い当該八〇坪を賃借した旨の主張に対し、昭和二一年九月頃権利金として一、〇〇〇円を支払い当該八〇坪を賃借したとの認定をしても、当事者の主張の範囲を逸脱した認定とはいえない。