判旨
金銭債務において無過失は抗弁とならないが、不払について客観的に正当な事由がある場合には履行遅滞の責任を負わず、契約解除権も発生しない。もっとも、債務者が土地の所有権を自己に帰属すると確信していたとしても、それだけでは客観的に正当な事由があるとは認められない。
問題の所在(論点)
金銭債務である賃料債務の不払において、債務者が自己の所有権を確信していた場合、履行遅滞責任を阻却する「客観的に正当な事由」が認められ、解除権の発生が妨げられるか。
規範
金銭債務については、不可抗力をもって抗弁とすることはできず(民法419条2項)、無過失であっても責任を免れないのが原則である。しかし、債務の不払について「客観的に正当な事由」がある場合には、債務者は遅滞の責めに任ぜられず、債権者に契約解除権は発生しない。
重要事実
上告人(賃借人)は、本件土地の賃料を支払わなかった。上告人は、本件土地の所有権が自己に帰属しているものと確信していたため、賃料支払義務は存在しないと考えていた。被上告人(賃借人)は賃料不払を理由に賃貸借契約の解除を主張したが、上告人は不払に正当な事由があるとして争った。
あてはめ
金銭債務の特則から、単なる無過失や主観的な確信のみでは足りない。本件において、上告人が土地の所有権が自己にあると確信していたという事実は認められるものの、その主観的な確信は、客観的にみて賃料不払を正当化するほどの理由には達していない。したがって、履行遅滞を免れるための「客観的に正当な事由」があるとは認められない。
結論
本件土地の所有権が自己に帰属すると確信していたとしても、客観的に正当な事由があるとは認められないため、賃料不払に基づく解除権の発生は妨げられない。
実務上の射程
民法419条2項により金銭債務の無過失責任が原則とされる中で、履行遅滞の違法性(または帰責事由)を阻却しうる例外的な『客観的に正当な事由』のハードルが極めて高いことを示している。所有権の帰属争いなど、債務の存否に疑義がある場面での解除の有効性を検討する際の規範として活用できる。
事件番号: 昭和33(オ)972 / 裁判年月日: 昭和37年1月19日 / 結論: 棄却
原審認定の事実関係のもとでは、建物賃貸借契約の解除権行使をもつて権利濫用ということはできない。