判旨
判決理由の齟齬(旧民訴法395条1項6号、現行312条2項6号)とは、重要な事項について理由に食い違いがある場合を指し、単なる証拠の取捨に関する理由の不十分や不明瞭はこれに含まれない。また、同一文書を別個の証拠と誤認した瑕疵があっても、それが判決の結論に影響を及ぼさない場合には、上告理由には当たらない。
問題の所在(論点)
判決文における東西の書き間違い(誤記)や、同一内容の証拠を別個のものとして扱った事実認定上の過誤が、旧民事訴訟法395条1項6号(現行312条2項6号)の「理由の齟齬」に該当し、当然違憲の上告理由となるか。
規範
「判決に理由を付せず、又は理由に齟齬があるとき」(現行民事訴訟法312条2項6号)における「理由の齟齬」とは、判決の重要な事項について理由に論理的な矛盾や食い違いがある場合を指す。単なる証拠の取捨選択に関する説明の不十分、不明瞭、または判決の結論に影響を及ぼさない程度の形式的な誤認は、これに該当しない。
重要事実
原審において、裁判所が検証結果を引用する際、道路や溝の方向(東側と西側)を誤って記載する「誤記」を犯した。また、記録上同一の文書である証拠(甲3号証と乙1、2号証)を、異なる内容の証拠であると誤認して判示に用いた。上告人は、これらの瑕疵が判決理由の齟齬に当たると主張して上告した。
あてはめ
第一に、東西の表記ミスについては、他の証拠(一審の検証結果)と対照すれば明白な誤記であり、判決の論理構成を破綻させるものではない。第二に、同一文書を別個の証拠と誤認した点については、証拠の取捨選択に関する不備にすぎず、重要な事項についての理由の食い違いとはいえない。さらに、当該証拠が正しく同一のものとして扱われたとしても、その内容は既に認定資料に含まれているものであるから、判決の結論(主文)を左右するものではない。したがって、これらの瑕疵は判決に影響を及ぼさない。
結論
本件のような明白な誤記や、結論に影響しない証拠誤認は「理由の齟齬」には当たらず、上告理由とはならない。上告棄却。
事件番号: 昭和34(オ)395 / 裁判年月日: 昭和37年1月9日 / 結論: 棄却
原判決は争いある事実を争いないと判示しているが、右事実は第一審が証拠によつて認定した事実と同一であり、右確定事実を基礎としてなされた原判決の違法は判決に影響を及ぼすこと明らかなものとはいえない。
実務上の射程
判決理由の不備・矛盾を突く実務上の指針として重要。答案作成上は、単なる事実認定のミスを直ちに絶対的上告理由(理由の齟齬)に結びつけるのではなく、それが「判決の主文を導くための重要な論理的過程」に矛盾を生じさせているか、及び「結論に影響を及ぼすか」を検討する必要があることを示唆している。
事件番号: 昭和36(オ)912 / 裁判年月日: 昭和37年2月22日 / 結論: 棄却
昭和二〇年一〇月頃権利金として四、〇〇〇円を支払い当該八〇坪を賃借した旨の主張に対し、昭和二一年九月頃権利金として一、〇〇〇円を支払い当該八〇坪を賃借したとの認定をしても、当事者の主張の範囲を逸脱した認定とはいえない。
事件番号: 昭和31(オ)289 / 裁判年月日: 昭和31年9月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告理由が原審の適法な事実認定を非難するものにすぎない場合、民事訴訟法上の適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:上告人らが原審の事実認定を不服として上告を提起したが、上告理由の内容は、原審の証拠評価や事実認定のプロセスに対する非難を主とするものであった。 第2 問題の所在(論点):事実…
事件番号: 昭和42(オ)1012 / 裁判年月日: 昭和43年2月23日 / 結論: 棄却
原告が明渡を求める目的物件の表示を誤つて申し立てたため、裁判所が判決において目的物件の表示を誤つた場合において、右目的物件がもともと同一であることが記録上明らかであるときは、民訴法第一九四条を準用して、判決の更正をすることができると解するのが相当である。