判旨
司法警察職員による逮捕状の請求および逮捕が、客観的に犯罪の嫌疑を疑うに足りる相当な理由がある資料に基づいて行われた場合には、国家賠償法上の故意または過失があったと認めることはできない。
問題の所在(論点)
司法警察職員による逮捕状の請求および執行が、国家賠償法1条1項にいう「故意又は過失」による違法な公権力の行使に該当するための判断基準が問題となる。
規範
司法警察職員による逮捕の適法性および国家賠償法上の違法性(故意・過失)の有無は、逮捕状請求時に収集されていた資料に基づき、被疑者が当該犯罪を犯したと客観的に疑うに足りる相当な理由があったか否かという基準により判断される。
重要事実
上告人は、放火の容疑で司法警察職員によって逮捕された。上告人は、当該逮捕が不当であるとして国家賠償請求を提起した。原審は、逮捕状請求までに収集された資料によれば、上告人が本件放火を犯したことを客観的に疑うに足りる相当な理由があるため、警察職員に故意・過失はないと認定した。また、判決言渡し前に裁判官の転任があったが、転任前に評議は終了していたと推認され、言渡手続も適法に行われた。
あてはめ
本件において、司法警察職員らは逮捕状請求に至るまでに放火事件に関する資料を収集していた。これらの資料を客観的に検討すれば、上告人が犯人であると疑うに足りる「相当な理由」が認められる。このような客観的な嫌疑に基づく強制捜査については、職務上の注意義務に違反したとはいえず、公務員としての過失を認める余地はない。また、判決手続についても、評議後に裁判官が転任したとしても判決の成立自体に影響はなく、原本に基づく主文朗読がなされている以上、手続的違法も認められない。
結論
警察職員による逮捕に故意・過失は認められず、国家賠償請求は棄却される。
実務上の射程
逮捕の違法を理由とする国家賠償請求において、刑事訴訟法上の「逮捕の理由(相当な理由)」の存否が過失認定の枢要な考慮要素となることを示している。実務上は、逮捕時点での証拠関係から嫌疑の合理性を客観的に判断する枠組みとして活用される。
事件番号: 昭和29(オ)774 / 裁判年月日: 昭和31年11月30日 / 結論: 棄却
巡査が、もつぱら自己の利をはかる目的で、制服着用の上、警察官の職務執行をよそおい、被害者に対し不審尋問の上、犯罪の証拠物名義でその所持品を預り、しかも連行の途中、これを不法に領得するため所持の拳銃で同人を射殺したときは、国家賠償法第一条にいう、公務員がその職務を行うについて違法に他人に損害を加えた場合にあたるものと解す…