判旨
判決の結果に影響を及ぼすべき重要な証拠につき、何ら判断を示さず、これと矛盾する証拠のみに基づき事実認定を行うことは、審理不尽および理由不備の違法にあたる。
問題の所在(論点)
当事者が提出した重要な書証が認定事実と明らかに矛盾する場合に、その証拠を排斥する理由を判決書に記載せずに事実認定を行うことが、審理不尽または理由不備として破棄事由となるか。
規範
自由心証主義(民事訴訟法247条)の下においても、事実認定は証拠の合理的評価に基づく必要がある。判決の基礎となる重要な事実に関し、当事者が提出した証拠が認定事実と明らかに矛盾し、その成立に争いがない場合には、特段の事情がない限り、裁判所はその証拠を採用しない理由を明示すべきであり、これに触れずに反対の事実を認定することは理由不備(同法312条2項6号参照)の違法を構成する。
重要事実
上告人(被告)が動力噴霧機を購入した際の代金につき、被上告人(原告)が保証人として合計約7万円を肩代わりして支払ったと主張し、求償金を請求した事案である。原審は、被上告人側の供述等を総合して支払いの事実を認定したが、一方で成立に争いのない公文書(支払命令申立書や差押調書)には、被上告人が支払能力を欠いていたことや、実際の支払額が主張より大幅に少ないことを示唆する記載があった。原審はこれらの矛盾する証拠について何ら言及していなかった。
あてはめ
本件において、乙各号証(支払命令申立書等)は成立に争いがなく、その内容は被上告人の主張する弁済の事実を強く疑わせるものである。原審が採用した証拠(甲一号証、証言等)と、排斥された乙各号証は互いに相容れない関係にある。それにもかかわらず、原審は乙各号証について一言も触れることなく、被上告人側の供述のみで弁済事実を認定しており、論理的な証拠評価の過程を欠いている。これは判決の結論に影響を及ぼす審理不尽および理由不備の違法といえる。
結論
原判決には審理不尽、理由不備の違法があるため破棄を免れない。本件を原審に差し戻し、矛盾する証拠の評価を含めた再審理を命じる。
実務上の射程
本判決は、自由心証主義の限界を画し、判決における理由付記の程度を示すものである。答案上は、相手方の提出した有力な反証を無視して自律的な認定を行った場合の「理由不備」の論拠として活用できる。特に成立の真正に争いのない公文書(書証)と供述が矛盾する場面での適用が有効である。
事件番号: 昭和30(オ)431 / 裁判年月日: 昭和31年6月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が口頭弁論において証拠(書証)の成立を認めた場合、その成立に争いがないものとして扱われ、裁判所がこれに基づき事実認定を行っても違法とはならない。 第1 事案の概要:上告人は、原審(控訴審)の口頭弁論において、証拠として提出された「甲第二号証」の成立を認める旨の陳述を行っていた。しかし、上告人…