判旨
契約の当事者が誰であるかは、契約当事者双方の意思の合致を基準に判断されるべきであり、双方が特定の法人を認識せず、その法人と契約する意思がない場合には、当該法人との間の契約成立は否定される。
問題の所在(論点)
契約当事者双方が特定の法人の存在を認識せず、かつ当該法人を代表して契約する意思も持たなかった場合に、当該法人を当事者とする契約が有効に成立したといえるか。意思表示の合致、ひいては当事者の確定が問題となる。
規範
契約の成立における当事者の確定は、契約当事者双方の主観的な意思、および契約締結に至る諸般の事情を総合して判断される。特に、当事者双方が契約の相手方を誤認しており、特定の法人と契約を締結する意思が全く存在しない場合には、当該法人を当事者とする意思表示の合致が認められず、契約は成立しない。
重要事実
控訴人(上告人)の社員Dおよび専務取締役Eは、有限会社B靴店の存在を全く知らなかった。そのため、控訴人側には同会社と契約を締結する意思が全くなかった。一方で、相手方のFも、同会社を代表して書面(甲一号証)を差し入れる意思は全くなかった。このような状況下で、当該法人を当事者とする形式の書面が作成された。
あてはめ
本件において、控訴人側の担当者(DおよびE)は有限会社B靴店の存在自体を認識しておらず、同社と契約する意思を欠いていた。また、書面を差し入れたFにおいても、同社を代表して契約する意思がなかった。このように、双方に特定の法人を当事者とする確定的な意思がない以上、客観的に同社名義の書類が存在したとしても、実質的な意思表示の合致は存在しないと評価される。
結論
本件契約は、当事者間の意思の合致を欠くため、有限会社B靴店を当事者として成立したとは認められない。
実務上の射程
当事者の確定に関する典型的な事案。契約名義と実際の意思が乖離している場合、双方が相手方をどのように認識していたかという主観的態様が決定的な要素となる。実務上は、代理権の有無や名義貸しの論点と峻別し、まずは「誰と誰の間で契約が成立したか」という合意の存否を先行して検討する際に用いる。
事件番号: 昭和32(オ)109 / 裁判年月日: 昭和34年3月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約において、実質的な需要者が別に存在する場合であっても、売主が当該需要者の信用を欠くとして取引を拒絶し、これを受けた者が自ら買主となることを申し入れ、双方がこれを了承したときは、その者を契約の当事者(買主)と認めるべきである。 第1 事案の概要:上告人と訴外D水産株式会社(以下「D社」)との…