判旨
裁判上の和解において建物の明渡猶予期間を定め、その期間中に家賃相当額を損害金名義で支払う旨の約定がなされたとしても、直ちに賃貸借契約が成立したものとは認められない。したがって、当該和解に基づく占有に対して借家法(現:借地借家法)の適用はない。
問題の所在(論点)
裁判上の和解における建物の明渡猶予と損害金支払の合意が、実質的な賃貸借契約に該当し、借家法(現:借地借家法)の適用を受けるか。
規範
ある合意が賃貸借契約(民法601条)に該当し、借家法等の特別法の適用を受けるか否かは、名目のみならず、和解成立に至る経緯や合意の目的、対価の性質等を総合して、実質的に建物の賃貸借を目的とするものであるかによって判断される。
重要事実
当事者間で建物の明渡等について裁判上の和解が成立した。その内容は、建物の明渡を約4年8ヶ月猶予し、その間、借主は家賃統制額に相当する金員を「損害金」名義で毎月支払うというものであった。さらに、法令の改定により家賃統制額が増減した場合には、当該損害金も連動して修正する旨の約定が含まれていた。借主側は、この和解の実質は賃貸借契約であるとして、借家法の適用を主張した。
あてはめ
本件和解は、建物の明渡義務を前提とした「猶予期間」を定めるものであり、新たな利用権を設定する趣旨とは認められない。支払われる金員が「損害金」名義であり、かつ家賃統制額と連動する定めがあったとしても、それは不法占有による損害賠償額の算定基準を明示したに過ぎない。したがって、明渡の合意に伴う付随的処理としての性格が強く、実質において賃貸借契約としての実体を有するものとは評価できない。
結論
本件和解によって賃貸借契約が成立したとはいえず、借家法の適用を否定した原審の判断は妥当である。
実務上の射程
事件番号: 昭和32(オ)50 / 裁判年月日: 昭和33年6月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地借家法が適用されない「一時使用のための借地権」に該当するか否かは、賃貸借の目的、期間、設備、その他の諸客観的状況を総合的に考慮して判断される。本件では、原審の認定に基づき、本件宅地の賃貸借が一時使用のためのものであると認められた。 第1 事案の概要:上告人は本件宅地を賃借していたが、被上告人が…
明渡和解後の占有について、借地借家法の更新拒絶等の制限を潜脱しようとする脱法的な合意であれば別だが、単なる明渡猶予の合意であれば、賃貸借の成立は否定されやすい。答案上は、当事者の真意が「利用権の再設定」か「既往債務の整理・明渡の円滑化」かを見極める際の指標として活用できる。
事件番号: 昭和33(オ)462 / 裁判年月日: 昭和35年9月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃料値上げの合意が地代家賃統制令に違反して無効である場合、当該合意に基づく不足分の不払を理由とする賃貸借契約の解除は認められない。 第1 事案の概要:賃貸人(上告人)と賃借人(被上告人)との間で、本件建物の賃料値上げの合意がなされた。賃貸人は、賃借人が昭和25年9月分の賃料につき、値上げ後の不足分…
事件番号: 昭和38(オ)392 / 裁判年月日: 昭和39年8月20日 / 結論: 棄却
賃貸借終了後の損害金としての金員請求は、「賃貸借が原告主張の時点より後に終了したとすれば、その時までは賃料として請求する」との趣意を含むと解するのが一般であるが、本件における事情(当審判決理由参照)のもとにおいては、賃料請求としての趣意を含むものと解するのは相当でない。
事件番号: 昭和33(オ)410 / 裁判年月日: 昭和36年8月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約において、賃料支払の遅滞があった場合に催告なしに契約を解除できる旨の失権約款は、直ちに公序良俗に反して無効となるものではない。特段の事情がない限り、民法541条の規定にかかわらず、無催告解除による失権の効力が認められる。 第1 事案の概要:上告人(賃借人)と被上告人(賃借人)との間で成立…