判旨
賃貸借契約において、賃料支払の遅滞があった場合に催告なしに契約を解除できる旨の失権約款は、直ちに公序良俗に反して無効となるものではない。特段の事情がない限り、民法541条の規定にかかわらず、無催告解除による失権の効力が認められる。
問題の所在(論点)
賃貸借契約において、賃料支払遅滞を理由とする無催告解除条項(失権約款)の有効性、および民法541条の適用・民法90条違反の成否が問題となる。
規範
賃貸借契約における無催告解除条項(失権約款)は、公序良俗(民法90条)に反するような特段の事情がない限り、原則として有効である。民法541条は任意規定の性質を有しており、当事者間の合意によって催告の手続きを排除することは妨げられない。
重要事実
上告人(賃借人)と被上告人(賃借人)との間で成立した調停条項中に、賃料の支払を遅滞した場合には催告を要せず当然に賃貸借契約が解除される旨の失権約款が含まれていた。その後、上告人に賃料不払の事実が発生したため、被上告人は右条項に基づき契約の解除を主張した。これに対し、上告人は、民法541条に基づき事前の催告が必要であり、これを排除する失権約款は公序良俗に反し無効であると主張して争った。
あてはめ
本件における失権約款は調停調書という公的な合意形成の場で成立したものであり、その内容が一方的に賃借人に過酷な不利益を強いるものとは認められない。また、上告人において賃料の支払遅滞という債務不履行の事実が認められる以上、約款に基づき催告なしに解除の効力が生じる。民法541条の規定は強行規定ではなく、本件のような約款が直ちに民法90条の公序良俗に反し無効であると解すべき根拠はない。
結論
本件賃貸借契約は失権約款に基づき有効に解除されており、催告を欠くことをもって解除を無効とすることはできない。上告人の請求は棄却される。
事件番号: 昭和33(オ)882 / 裁判年月日: 昭和36年12月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判上の和解において建物の明渡猶予期間を定め、その期間中に家賃相当額を損害金名義で支払う旨の約定がなされたとしても、直ちに賃貸借契約が成立したものとは認められない。したがって、当該和解に基づく占有に対して借家法(現:借地借家法)の適用はない。 第1 事案の概要:当事者間で建物の明渡等について裁判上…
実務上の射程
本判決は無催告解除条項の原則有効性を認めたものであるが、後の判例(最判昭43.12.17等)では、信頼関係を破壊するに足りない特段の事情がある場合には解除権の行使が制限されるという「信頼関係の法理」が確立されている。答案上は、本判決を前提に約款の有効性を認めつつ、具体的なあてはめでは信頼関係破壊の有無を検討する構成をとるのが標準的である。
事件番号: 昭和30(オ)830 / 裁判年月日: 昭和32年1月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約において、賃料を1か月分でも不払いにしたときは無催告で解除できる旨の特約は、信義則に反し権利の濫用と認められる特段の事情がない限り有効である。 第1 事案の概要:上告人(賃借人)と被上告人(賃貸人)との間には、調停条項により「賃料を1か月分でも支払うことを怠ったときは、被上告人において催…