判旨
和解条項の内容を確定するにあたっては、文字のみに拘泥せず、他の証拠と総合して当事者の真意(約旨)を探求すべきである。
問題の所在(論点)
裁判上の和解条項に特定の日付からの明渡しが記載されている場合、その文言のみから一律に義務の内容を判断すべきか、あるいは当事者の真意を探求して解釈すべきか。また、明渡しの実行が権利放棄を意味するか。
規範
和解の内容を確定するに当たっては、その文字のみに拘泥すべきではなく、他の証拠と総合して当事者の約旨(合意の真意)を探求すべきである。また、強制執行の結果として一時的に建物を明け渡した事実があっても、直ちに将来にわたる使用収益権の放棄があったと認めることはできない。
重要事実
建物賃貸借に関連する和解条項において「被上告人は、昭和25年9月25日から本件建物の大修繕工事完了まで明渡すこと」との記載があった。上告人は、この日付から無条件に明け渡すべき合意であると主張し、執行吏を通じて明渡しを要求した。被上告人は、この要求に従うほかないと考え、一応建物を明け渡した。しかし、被上告人は大修繕完了後の使用収益権まで放棄したわけではないとして争った。
あてはめ
本件和解条項の真意は、上告人が修繕工事に着手するのと同時に被上告人が明け渡せば足りるという趣旨であったと認められる。和解条項に記載された特定の日付は、修繕着手の予定を前提としたものに過ぎず、文字通りの無条件な明渡しを定めたものではない。また、被上告人が執行吏の要求に応じて一時的に明け渡した事実は、強制執行の手続き上の対応に過ぎず、大修繕完了までの使用収益権を放棄する意思表示があったとは認められない。
結論
和解条項の解釈において当事者の真意を探求した原審の判断は正当であり、被上告人が使用収益権を放棄した事実もないため、上告を棄却する。
事件番号: 昭和33(オ)882 / 裁判年月日: 昭和36年12月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判上の和解において建物の明渡猶予期間を定め、その期間中に家賃相当額を損害金名義で支払う旨の約定がなされたとしても、直ちに賃貸借契約が成立したものとは認められない。したがって、当該和解に基づく占有に対して借家法(現:借地借家法)の適用はない。 第1 事案の概要:当事者間で建物の明渡等について裁判上…
実務上の射程
意思表示の解釈一般(民法91条等)や和解の効力に関する論点において、文言の形式的意味と当事者の合理的期待が乖離する場合の解釈手法として活用できる。特に執行力の生じる債務名義であっても、その実体的権利義務の範囲は証拠に基づく真意探求により定まることを示す。答案では、条文の文言解釈の限界と「当事者の約旨」の優先性を論じる際に引用すべき判例である。
事件番号: 昭和26(オ)610 / 裁判年月日: 昭和27年5月9日 / 結論: 棄却
他人の賃借現住中の家屋を買い受けた者でも、原判決認定のような事情があるときは、右家屋中原判示部分の明渡を求めるにつき正当の事由がある。
事件番号: 昭和32(オ)597 / 裁判年月日: 昭和34年5月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借終了後の目的物占有継続は、特段の事情がない限り、所有権侵害についての故意・過失が事実上推定される。 第1 事案の概要:賃貸人(被上告人)が、賃貸借契約の終了後も目的物を占有し続けている賃借人(上告人)に対し、所有権侵害に基づく不法行為責任(損害賠償)を追及した。上告人側は、訴状において「故意…