一、保険金請求権が貸金債権に対する権利質の目的となつている場合、その質権の実行として、債権者名義のいわゆる特殊預金設定の方法により保険金の取立がなされたときは、貸金債権は、これにより有効に決済される。 二、保険金請求権に質権を設定し、または、右質権者が保険金を特殊預金設定の方法で受領するには、企業整備資金措置法第一四条による政府の許可を要しない。
一、権利質の実行としてなされた特殊預金設定の方法による保険金請求権の取立の効力 二、保険金請求権に質権を設定しまたは右質権者が保険金を特殊預金設定の方法で受領するには企業整備資金措置法第一四条による政府の許可を要するか
民法367条1項,臨時資金調整法施行令9条ノ4,企業整備資金措置法14条,同法施行令3条
判旨
債権質権者が民法367条1項に基づき第三債務者から直接取立てを行う際、質権者の承諾の下で特殊預金設定の方法により支払が行われた場合、これによって被担保債権は弁済により消滅する。
問題の所在(論点)
債権質権者が民法367条1項に基づき、第三債務者から金銭の直接交付ではなく「特殊預金の設定」という方法で支払を受けた場合、被担保債権の消滅原因である「弁済」と認められるか。また、これが代物弁済にあたるか否かが判決に影響するか。
規範
債権質権者は、質権の目的である債権を直接に取り立てることができる(民法367条1項)。この取立権の行使による受領は、その態様が金銭の直接交付に限らず、質権者が承諾した代替的な支払方法(預金口座への振込や設定等)によるものであっても、実質的に債権の満足を得るものである以上、被担保債権を消滅させる「弁済」としての効力を有する。
重要事実
上告人(質権者)の代理人Dは、被上告人(質権設定者)に対する貸金債権を担保するため、保険金請求権に質権を設定していた。Dは民法367条1項に基づき、第三債務者であるE保険会社から直接取立てを行った。当時施行中の法令により、保険金の一部は特殊預金として支払う必要があったため、Dはこれを承諾し、自己の取引銀行に上告人名義の特殊預金口座の設定を受ける方法で支払を受けた。さらに貸金の残額および利息についても別途支払を受けたが、後に上告人側が「特殊預金による受領は弁済にあたらない」等と主張して争った。
事件番号: 昭和39(オ)1367 / 裁判年月日: 昭和40年12月3日 / 結論: 棄却
一 債権担保の機能を営む代物弁済の予約がされた後、被担保債権の一部が弁済されても、反対の特約または権利の濫用と認められるような特段の事由がないかぎり、当該予約完結権の行使は妨げられない。 二 前項の場合において、予約完結権を行使した債権者は、特段の事情がないかぎり、一部弁済としてすでに受領した金員を債務者に返還する義務…
あてはめ
本件において、上告人の代理人Dは、法令上の制限を踏まえ、自らの指定により上告人名義の特殊預金口座を設定させることで保険金の支払いを受けた。これは質権者の承諾に基づく支払態様であるといえる。質権の実行として第三債務者から直接取立てを行うことも「弁済」を受ける一態様にほかならない。したがって、Dが特殊預金設定を承諾してこれを受領した時点で、保険金相当額の範囲で被担保債権の目的は達せられたといえる。なお、これが法律上「弁済」であるか「代物弁済」であるかの性質決定は、債権消滅という結論に影響を及ぼさない。
結論
質権者が承諾した特殊預金設定による受領は有効な弁済であり、これによって被担保債権全額は消滅した。したがって、上告人の請求は認められない。
実務上の射程
民法367条に基づく直接取立権の行使が、被担保債権の弁済に他ならないことを確認した事例である。質権者が債務者以外(第三債務者)から受領する場合でも、質権者が承諾した支払方法であれば有効な消滅原因となる。答案上は、債権質の実行による債権消滅の成否が争点となる場面で、受領態様の柔軟性を肯定する根拠として活用できる。
事件番号: 昭和33(オ)1073 / 裁判年月日: 昭和36年9月15日 / 結論: 棄却
工場財団に属する動産についても民法第一九二条の適用がある。