所有権移転予約形式の仮登記担保権を有する債権者が債務者の履行遅滞を理由として予約完結権を行使した場合でも、債権者において清算金を支払う必要があり債務者においてその支払があるまで目的不動産についての本登記手続義務の履行を拒みうるときは、目的不動産の所有権は、右予約完結権の行使により直ちに債権者に移転するものではない。
所有権移転予約形式の仮登記担保関係における予約完結権の行使と目的不動産の所有権の移転
民法176条,民法482条,民法556条,不動産登記法2条,不動産登記法7条2項,不動産登記法105条1項
判旨
仮登記担保契約において、予約完結権の行使により目的不動産の所有権が債権者に移転するためには、債権者による清算金の支払が必要であり、債務者は清算金の支払を受けるまで本登記手続等を拒絶できる。
問題の所在(論点)
売買予約形式の仮登記担保契約において、予約完結権の行使のみによって所有権が移転するか。また、清算金の後払特約がある場合に、清算金の支払と本登記手続等は同時履行の関係に立つか。
規範
仮登記担保契約において債権者が取得する権利は、予約完結権の行使により目的不動産を適正評価額で確定的に自己の所有に帰属させ、その評価額から自己の債権の弁済を得るという換価権能である。したがって、債権者が予約完結の意思表示をしただけでは所有権は移転せず、評価額が債権額等を超える場合には、清算金の支払と本登記手続・物件引渡義務とは同時履行の関係に立つ。この関係は、清算金後払の特約がある場合でも否定されない。
重要事実
債務者A1は、金融業者である債権者との間で、借入債務の担保として不動産に売買予約に基づく所有権移転仮登記を経由した。予約には、期限利益喪失時に予約完結権を行使できること、完結時の不動産価額と債務を相殺し過不足を清算すること、ただし受取分(清算金)がある場合も本登記及び明渡完了後に支払うという後払特約が含まれていた。その後、債権者は予約完結権を行使したが、完結時の不動産時価(344万円)は残存債務額(約32万円)を大幅に上回っていた。
事件番号: 昭和45(オ)1156 / 裁判年月日: 昭和50年9月9日 / 結論: 破棄差戻
仮登記担保権者は、目的不動産につき後順位権利者があるときは、債務者に対する被担保債権以外の金銭債権をもつて自己の負担する清算金支払債務と相殺することができない。
あてはめ
仮登記担保契約の趣旨は、不動産の有する交換価値から排他的満足を得る点にある。本件予約においても、清算金の清算が予定されている以上、実体は仮登記担保権である。後払特約が存在するとしても、債務者の保護及び担保権の性質に鑑みれば、清算金の支払と引換えにのみ権利移転を認めるべきである。したがって、単なる完結権の行使のみでは所有権は移転せず、債務者は清算金の支払を受けるまで本登記手続等を拒むことができるといえる。
結論
予約完結権の行使のみでは不動産の所有権は移転しない。債権者の請求に対し、債務者は清算金の支払との引換給付を主張することができる。
実務上の射程
仮登記担保法制定前の判例であるが、同法が適用されない事案(不動産以外の担保等)や、同法の趣旨を解釈する際の基礎となる。答案上は、仮登記担保の帰属清算型における清算金支払義務と登記義務の同時履行性を論じる際に活用する。
事件番号: 昭和40(オ)1110 / 裁判年月日: 昭和43年2月29日 / 結論: 棄却
貸金債権担保のため不動産に抵当権が設定され、あわせて同一債権保全のため右不動産について代物弁済の予約が締結された場合において、右抵当権の実行による競売手続が開始したときは、右競売手続が競売申立の取下その他の事由により終了しないかぎり、債権者が代物弁済の予約の完結権を行使することは許されない。
事件番号: 昭和39(オ)277 / 裁判年月日: 昭和40年4月16日 / 結論: 棄却
抵当権設定契約と併存的に債務不履行を停止条件とする代物弁済の本契約を締結する趣旨が当事者の意思表示条明確である場合には、これを代物弁済の予約と解しなければならないことはない。
事件番号: 昭和39(オ)1367 / 裁判年月日: 昭和40年12月3日 / 結論: 棄却
一 債権担保の機能を営む代物弁済の予約がされた後、被担保債権の一部が弁済されても、反対の特約または権利の濫用と認められるような特段の事由がないかぎり、当該予約完結権の行使は妨げられない。 二 前項の場合において、予約完結権を行使した債権者は、特段の事情がないかぎり、一部弁済としてすでに受領した金員を債務者に返還する義務…
事件番号: 昭和45(オ)731 / 裁判年月日: 昭和45年12月24日 / 結論: 破棄差戻
清算型代物弁済予約の予約権者が、登記簿上利害関係を有する後順位債権者に対して本登記の承諾を求める場合には、右予約権者は、それらの者の債権額および優先順位に応じて清算金を同人らに交付すべき義務があり、同人らは、その交付を受けるのと引換えにのみ右承諾義務の履行をすべき旨を主張しうるものと解すべきである。