診察時に患者が嘔吐、下痢、発熱三九度五分、扁桃腺腫赤の症状を呈していたが浣腸を施し検便の結果、粘液、膿汁、血液が発見されず脳症状も現れていなかつた場合においては、いまだ疫痢を疑う段階になかつたものというべく、事後患者の症状が疫痢に急変する予想のもとに附添人に看護上特別の指導を与えなかつたとしても、当該医師に過失はない。
診断後症状が疫痢に急変した患者についての看護指導に関し医師に過失がないとされた事例
民法709条,民法711条,医師法23条
判旨
医師が診断において疫痢の可能性を予見し得なかった場合には、診断上の過失や看護指導義務違反は認められず、また問診の不備があっても結果との因果関係が認められない限り不法行為責任は成立しない。
問題の所在(論点)
医師が特定の疾患(疫痢)を予見すべき注意義務を負うための判断基準、および問診の懈怠と死亡との因果関係の有無。
規範
医師の注意義務違反(過失)の有無は、当時の臨床医学の知見に照らし、当該疾患を疑うべき客観的な症状が存在し、その予見が可能であったか否かによって判断される。また、問診等の義務違反が認められる場合であっても、それが結果との間に相当因果関係を有しない限り、損害賠償責任は生じない。
重要事実
患者Dが発熱・嘔吐・下痢等の症状で被上告人(医師)を受診した際、被上告人は検便等の検査を行った。その結果、黄色軟便で不消化物は混じっていたが、粘液・膿汁・血液は発見されず、脳症状も現れていなかった。被上告人は扁桃腺炎および消化不良症と診断したが、後にDは疫痢により死亡した。上告人は、被上告人が既往症の問診や看護指導を怠った過失があると主張し、不法行為に基づく損害賠償を求めた。
あてはめ
まず、疫痢の認定には脳症状、循環器障害、便中の膿粘血という条件が必要とされるところ、診察時点では便に異常がなく脳症状もなかったため、疫痢を疑う段階にはなかったといえる。したがって、扁桃腺炎等と診断したことに過失はなく、事後の急変を予想した特別の看護指導を行う義務も認められない。次に、既往症に関する問診を怠った点については、仮に問診を行って過去の類似症状を知り得たとしても、本件診察時の客観的症状に照らせば疫痢の予見や急変の回避が可能であったとは直ちに断定できない。ゆえに、問診の懈怠とDの死亡との間に因果関係を認めることはできない。
結論
被上告人に診断上の過失や指導義務違反はなく、問診の不備についても死亡との因果関係が認められないため、不法行為責任は成立しない。
実務上の射程
医療過失における「予見可能性」の具体的判断枠組みを示す事例である。答案上では、当時の症状から特定の病名を想起すべき義務(診断義務)の限界を論じる際や、手続的な義務違反(問診懈怠)があっても結果回避可能性(因果関係)が否定される場面での参照に適している。
事件番号: 昭和32(オ)760 / 裁判年月日: 昭和36年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自動車運転者は、前方に同一方向に進行する自転車がある場合、進路の間隔を十分に保ち、自転車の予期せぬ挙動にも対応できるよう減速すべき注意義務を負い、また、使用者が民法715条1項但書による免責を受けるには選任及び監督の両方について相当の注意を尽くしたことを要する。 第1 事案の概要:加害者Aは、自動…