一 刑訴第二〇八条第二項所定の「やむを得ない事由があると認めるとき」とは、事件の複雑困難(被疑者もしくは被疑事実が多数であるほか、計算複雑被疑者関係人らの供述その他の証拠のくいちがいが少なからず、あるいは取調を必要と見込まれる関係人、証拠物等が多数の場合等)、あるいは証拠蒐集の遅延もしくは困難(重要と思料される参考人の病気、旅行、所在不明もしくは鑑定等に多くの日時を要すること)等により、勾留期間を延長して更に取調をしなければ起訴、不起訴の決定をすることが困難な場合をいうものと解すべきである。 二 原判決挙示の事実関係だけでは、検察官が勾留延長請求をし裁判官が右請求認容の裁判をしたことをもつて、直ちに国家賠償法第一条第一項所定の過失があるとはいえない。
一 刑訴第二〇八条第二項所定の「やむを得ない事由があると認めるとき」の意義 二 検察官が勾留延長請求をし裁判官が右請求認容の裁判をするについて、国家賠償法第一条第一項所定の過失があるとした原判決が違法であるとされた事例
刑訴法208条2項,国家賠償法1条1項
判旨
刑事訴訟法208条2項の「やむを得ない事由」とは、事件の複雑困難や証拠収集の遅滞等により勾留期間を延長して更に取調べをしなければ起訴・不起訴の決定が困難な場合をいう。この判断に過誤があったとして国家賠償法1条1項の過失が認められるのは、通常の検察官や裁判官であれば勾留延長請求やその認容をしなかったであろうことが明白な場合に限られる。
問題の所在(論点)
勾留延長の要件である「やむを得ない事由」の意義、及び勾留延長請求・認容の判断に過誤があった場合に国家賠償法1条1項の「過失」を認めるための判断基準が問題となる。
規範
刑訴法208条2項にいう「やむを得ない事由」とは、事件の複雑困難(被疑者・事実の多数、供述・証拠の食い違い等)や、証拠収集の遅延・困難(重要参考人の所在不明や鑑定の要否等)により、期間を延長して捜査を遂げなければ起訴・不起訴の決定をなすことが困難な場合をいう。そして、勾留延長の判断に係る国家賠償法上の過失の成否については、その過誤が「明白」であること、換言すれば、通常の検察官又は裁判官であれば、当時の状況下において何人も勾留延長請求や認容の裁判をしなかったであろうと考えられる場合に限り認められる。
重要事実
被疑者(被上告人)は参議院議員選挙における投票買収容疑で勾留された。当初は否認したが、後に買収事実を認める自白に転じ、さらにその自白内容も「衆議院議員のためであった」とするなど供述が変転した。また、重要参考人による面割りでは被疑者本人が犯人である蓋然性が示唆されていたが、一方で同姓の別人が真犯人である可能性も浮上しており、その真犯人は勾留当時所在不明であった。検察官は勾留延長を請求し、裁判官はこれを認容したが、延長期間中に特段の捜査が行われなかったこと等を理由に、原審は検察官・裁判官の過失を認めた。
あてはめ
本件では被疑者の供述が変転を重ねており、真相の把握が容易ではなかった。また、重要参考人と目される真犯人(O)の所在を確認し取調べることが、起訴・不起訴の決定上必要であると考える余地が十分に認められる。このような状況下においては、たとえ結果的に勾留延長後の捜査が限定的であったとしても、勾留延長の請求・認容が直ちに失当であるとはいえない。したがって、通常の検察官・裁判官であれば判断しなかったであろう「明白な過誤」があるとは認め難い。
結論
勾留延長請求および認容の判断に国家賠償法上の過失があったとたやすく認めることはできず、審理不尽・理由不備として原判決(上告人敗訴部分)を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
勾留延長の要件解釈を示すとともに、検察官や裁判官の司法的判断について国家賠償責任を認めるための「職務義務違反の明白性」という厳格な要件を定立した。司法試験においては、公権力の行使における「過失」の判断枠組みとして、裁量的な判断を伴う事案(勾留、起訴、裁判等)に共通して適用される規範である。
事件番号: 昭和34(オ)733 / 裁判年月日: 昭和35年3月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】審理不尽や立証機会の剥奪という違法が認められない限り、裁判を受ける権利(憲法32条)の侵害を理由とする違憲の主張は認められない。 第1 事案の概要:上告人は、原審が審理を尽くさず、また上告人に立証の機会を与えないまま判決を下したと主張した。これが憲法32条の保障する裁判を受ける権利を侵害し、違憲で…