判旨
公文書であっても、その成立の真正(形式的証拠力)と内容の真実性(実質的証拠力)は別個の問題であり、裁判所は他の証拠と照らして公文書の記載内容を排斥することができる。
問題の所在(論点)
民事訴訟法における公文書の証拠力の問題。公文書(形式的証拠力が認められる文書)の記載内容と異なる事実を、他の証拠(人証や他の書面)に基づき認定することができるか、すなわち実質的証拠力の判断の限界が問題となる。
規範
公文書が適式に作成されたからといって、その記載内容のすべてに当然に高度な実質的証拠力が認められるわけではない。公文書の成立の真正が認められる場合であっても、その内容の信憑性(実質的証拠力)については、他の証拠との対比を通じた自由心証による合理的な判断の対象となる。
重要事実
上告人らは、小作台帳等の公文書(甲第9号証等)に基づき、買収対象地以外に所有する小作地の面積を主張した。しかし、農業委員会が改めて調査した報告書(乙第7号証)や証人の証言によれば、当該公文書には脱落があり、実際には上告人一家は7反3畝7歩の小作地を別途所有していることが判明した。原審は、公文書である甲号証よりも乙号証等の記載内容を信憑性が高いとして採用した。
あてはめ
本件において、甲第9号証等は公文書として形式的証拠力を持つが、証人の証言等によりその記載に「脱落」があることが具体的に指摘されている。これに対し、農業委員会の再調査に基づく報告書(乙第7号証)は正確な現況を反映していると認められる。裁判所がこれらの証拠を対比した結果、公文書の内容を措信せず、他の証拠に基づき事実を認定したことは、証拠の取捨選択という裁判所の専権事項に属する合理的な判断といえる。
結論
公文書の内容に反する事実認定も、他の証拠により合理的な理由がある限り許容される。したがって、原審の事実認定に違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
民訴法228条2項の「真正に成立したものと推定する」という規定は形式的証拠力に関するものであり、実質的証拠力(信憑性)は自由心証に委ねられることを明確にする際に活用する。特に公簿(小作台帳、住民票、戸籍等)の記載と実態が異なる事案での事実認定の枠組みとして有用である。
事件番号: 昭和31(オ)26 / 裁判年月日: 昭和33年6月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告理由が原審の事実認定を攻撃するもの、または原審において主張しない事実を前提とするものである場合には、適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:上告人は、原審(控訴審)の判決に対し、事実認定の不当性等を理由として上告を提起した。しかし、その主張内容は原審の事実認定自体を攻撃するもの、ある…