判旨
手形振出人の名称に併記された地名が登記簿上の営業所所在地と異なっていても、商号及び代表者名の記載により振出人が特定できる限り、当該手形は有効である。
問題の所在(論点)
手形振出人の名称に付記された地名が登記簿上の営業所所在地と異なる場合、当該振出人の記載は有効か。また、これをもって振出人を特定し、手形上の責任を認めることができるか。
規範
手形振出人の名称に付記された地は、振出地の記載がない場合に振出地とみなされる(手形法2条4項・76条4項参照)に過ぎない。したがって、付記された地が振出人の登記簿上の営業所所在地と相違していても、手形の効力は妨げられない。振出人欄の記載から、商号および代表者名が同一であるなどの客観的事実に基づき、特定の法人が表示されていると認められる場合には、その法人による振出しとして有効に成立する。
重要事実
上告会社を振出人とする手形において、振出人欄に記載された地名が、上告会社の登記簿上の営業所所在地と異なっていた。しかし、当該手形に記載された振出人の商号および代表取締役の氏名は、上告会社のものと全く同一であった。また、事実認定として、当該手形は上告会社の代表取締役により会社の代表行為として振出されたものであった。
あてはめ
本件手形における振出人の表示は、上告会社と商号および代表取締役の氏名が完全に一致している。手形法上、付記された地名は振出地を擬制する役割を果たすにとどまり、法人の同一性を否定する要素にはならない。本件では代表取締役が会社の代表として現に振出している事実もあり、振出人欄の記載は上告会社を表示したものと認めるのが相当である。したがって、所在地表示の不一致は手形の効力に影響を与えない。
結論
本件振出人欄の記載は上告会社を表示したものとして有効であり、上告会社は手形上の責任を免れない。
実務上の射程
手形要件の厳格性よりも、記載の合理的な解釈による振出人の特定を優先した事例である。実務上、多少の表示の誤りや齟齬があっても、商号や代表者名から主体の同一性が認められる限り、手形の有効性を維持する方向に働く。また、唯一の証拠であっても時機に遅れた証拠調べの却下が許容される点も実務上重要である。
事件番号: 昭和35(オ)313 / 裁判年月日: 昭和36年3月28日 / 結論: 棄却
約束手形に、受取人として「D陸運(株)」と表示され、第一裏書人として「D陸運株式会社取締役社長E」と表示されていることは、裏書の連続を妨げないものと解すべきである。