手形振出人たる会社の肩書地が登記簿上の本店所在地と異なつている場合でも、そのため振出人たる会社が不存在となるものではなく、振出署名をした会社の代表者が個人として手形責任を負うものではない。
手形振出人たる会社の肩書地が登記簿上の本店所在地と異なる場合と代表者個人の手形責任。
手形法8条
判旨
実在する会社が手形を振り出す際、手形上の肩書地が登記簿上の本店所在地と異なっていても、その記載のみで振出人の実在性が否定されることはない。
問題の所在(論点)
手形上の振出人の名称が実在する商号と一致しているが、肩書地(住所)が登記簿上の本店所在地と異なる場合に、振出人である会社の法律上の実在性を否定し、署名者個人の手形責任を問えるか。
規範
会社は本店所在地において設立登記をすることで法律上実在するに至る。実在する会社が手形を振り出す際、手形上に記載した肩書地が登記簿上の本店所在地と相違していても、その肩書地の記載によって会社の法律上の実在性や同一性が左右されるものではない。
重要事実
本件手形には、被上告人を代表取締役とする「D石油株式会社」が振出人として記載され、肩書地は「東京都目黒区」とされていた。しかし、登記簿上の本店所在地は「東京都大田区」であった。その後、商号は変更されたものの登記簿上は同一の会社として存続しており、被上告人は実在する当該会社の代表取締役として手形を振り出した事実が認められた。上告人は、肩書地の相違を理由に振出人の実在性を争い、被上告人個人の責任を追及した。
あてはめ
D石油株式会社は、東京都大田区に本店を有する会社として有効に登記され、商号変更後も登記簿上現在存続している実在の法人である。本件手形は被上告人が右の実在する会社の代表取締役たる資格で振り出したものである。手形上の肩書地(目黒区)と登記簿上の本店(大田区)が合致しないからといって、振出人たる会社が不存在であると解することはできない。したがって、実在する会社を振出人とする手形行為として有効である。
結論
手形上の肩書地が登記上の本店と異なっても振出人の実在性は否定されない。したがって、会社が手形債務を負担し、代表取締役個人が振出人としての責任を負うことはない。
実務上の射程
手形の振出人表示において、名称が特定でき、かつ当該法人が実在する限り、住所の記載ミスや相違は手形の効力や振出人の同一性に影響しないことを示す。法人名義の手形について、署名代理の有効性や振出人の特定が争点となる事案で、表示の些末な不一致が直ちに無効や個人責任に繋がらないとする論拠として活用できる。
事件番号: 昭和29(オ)933 / 裁判年月日: 昭和30年12月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】約束手形において受取人として実在しない株式会社の商号を記載したとしても、取引上株式会社と認められる名称であれば手形要件の欠陥とはならず、その後の代表者名義による裏書も連続性を有する。 第1 事案の概要:本件約束手形の振出人は、受取人欄に実際には存在しない「D工業株式会社」と記載し、その次行に「代表…