判旨
訴の変更が「請求の基礎」を欠く場合であっても、被告の抗弁に含まれる事実を請求原因とする場合はその欠缺が補充されるが、新請求の審理に新たな証拠調べを要し訴訟手続を著しく遅滞させるときは、当該変更は許されない。
問題の所在(論点)
旧請求と被告の抗弁に基づきなされた新請求について、「請求の基礎に変更がない」といえるか。また、新請求の審理に新たな証拠調べを要する場合に「訴訟手続を著しく遅滞させる」といえるか(民事訴訟法143条1項ただし書の該当性)。
規範
訴の変更(民事訴訟法143条1項本文、旧232条)が認められるためには、「請求の基礎に変更がない」こと、および「訴訟手続を著しく遅滞させない」ことの要件を充足する必要がある。前者の要件については、仮に新旧請求の基礎が異なるとしても、被告が提出した抗弁の内容を新請求の原因とする場合には、その欠缺は補充されたものと解する。しかし、後者の遅滞要件については、新請求の審理のために新たな事実認定や証拠調べを要し、審理の継続が不可避となる場合には、訴訟手続を著しく遅滞させるものとして訴の変更は許されない。
重要事実
上告人(原告)は、被上告人(被告)に対し、土地の不法占有を理由に建物収去土地明渡を請求した。これに対し被告は「賃借権を譲り受けた」との抗弁を提出した。原告は第一審で、この抗弁を是認する形で「賃借権譲渡代金の支払請求」へと訴を切り替え、さらに控訴審において「譲渡契約解除に基づく原状回復(価格償還)請求」へと訴を変更した。原審は、これらの変更には新たな証拠調べが必要であり、訴訟手続を著しく遅滞させるとして、変更を認めなかった。
あてはめ
本件における数次の訴の変更は、被告が当初の請求に対して提出した抗弁(賃借権譲渡契約の事実)を新請求の原因とするものである。この場合、新旧両請求の基礎に密接な関連が認められるため、請求の基礎の欠缺は補充される。しかし、変更後の新請求の内容(譲渡契約の詳細、履行の有無、賃借権の価格等)を審理するためには、改めて詳細な事実認定と証拠調べを行う必要がある。控訴審という段階において、これらの新たな審理を要することは、弁論の全趣旨に照らし、訴訟手続を著しく遅滞させるものと判断される。
結論
本件訴の変更は、請求の基礎の要件を実質的に満たすとしても、訴訟手続を著しく遅滞させる場合に該当するため、不適法として許されない。
事件番号: 昭和39(オ)573 / 裁判年月日: 昭和40年12月2日 / 結論: 棄却
訴の変更があつた場合においては、従前の訴訟資料はそのまま引きつがれると解するのが相当である。
実務上の射程
訴の変更の可否を検討する際のリーディングケース。被告が提出した資料を利用して変更を行う場合(防御から攻撃への転用)には「請求の基礎」を柔軟に認める一方で、審理の熟した段階での変更については「著しい遅滞」の要件を厳格に適用し、訴訟経済と手続保障のバランスを図る実務指針を示す。
事件番号: 昭和34(オ)474 / 裁判年月日: 昭和37年6月7日 / 結論: 棄却
主位的申立として、建物から退去してその敷地の明渡しを求め、予備的申立として、建物収去・土地明渡しを求め、その請求原因として、原告は右土地は原告の所有であるといい、前者につき、被告は右建物を無断で建てて右土地を不法占有している者から借受けて居住し右土地を不法占有していると主張し、後者につき、被告は右建物の建築者から右建物…
事件番号: 昭和36(オ)72 / 裁判年月日: 昭和36年11月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃料増額請求における適正賃料の算定において、借地権自体の価格を直接の要素として算入することはできないが、建物の立地条件等に基づく場所的利益を考慮することは妨げられない。また、増額請求の当否は諸般の事情を総合的に考慮して判断されるべきである。 第1 事案の概要:上告人(賃貸人)が被上告人(賃借人)に…
事件番号: 昭和33(オ)345 / 裁判年月日: 昭和34年8月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告審において、原審で主張していなかった新たな事実上の主張を基礎として原判決の違法をいうことは、民事訴訟の手続上許されない。 第1 事案の概要:上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)からなされた月額5,000円の延滞賃料の催告に基づく契約解除を争っていた。上告人は、上告審において、当該催告より以前…