判旨
恩給法11条により恩給受領委任の約旨が禁止され無効となる場合であっても、その一事をもって消費貸借契約全体の効力が否定されるものではない。
問題の所在(論点)
恩給受領を委任して債務弁済に充当させる特約が恩給法11条に抵触して無効となる場合に、消費貸借契約自体の効力も否定され、貸金返還請求が不可能になるか。
規範
特定の強行法規が特定の特約(本件では恩給受領委任の約旨)を禁止している場合であっても、当該特約が契約の不可分な要素でない限り、契約の本旨である金銭の貸借部分までが当然に無効となるものではない。したがって、消費貸借契約が有効である以上、その貸借に基づく返還請求権は適法に成立する。
重要事実
上告人(借主)は、被上告人(貸主)との間で消費貸借契約を締結した際、恩給の受領を貸主に委任し、その受領金を債務の弁済に充当させる旨の特約(受領委任約旨)を設けていた。上告人は、この特約が恩給権の担保差し入れを禁止する恩給法11条に抵触して無効であり、契約全体が無効となること、また不法原因給付(民法708条)に該当することを理由に、貸金の返還義務を否定した。
あてはめ
本件において、恩給法11条は恩給権の性質上、その担保化を制限しているにすぎない。年金の受領委任に関する約旨が同条に抵触し無効とされるとしても、金銭を貸し付け、これを返還するという消費貸借契約の根幹部分までが無効になる理由はない。また、不法原因給付の主張については、原審で主張・判断を経ていない事項であり、貸借契約自体が有効である以上、貸金返還請求を妨げる事由にはならないと解される。
結論
消費貸借契約は有効であり、貸主による貸金返還請求は適法である。
実務上の射程
一部無効が契約全体に及ぶかという「契約の可分性」の判断において、公序良俗違反(民法90条)や強行法規違反の射程を限定的に捉える際の論拠として活用できる。特に恩給や年金等の公的給付を原資とする弁済特約がある事案において、債務者の不当な利得を制限し、返還義務を認める理論構成に役立つ。
事件番号: 昭和27(オ)13 / 裁判年月日: 昭和29年8月31日 / 結論: 破棄差戻
消費貸借成立のいきさつにおいて、貸主の側に多少の不法があつたとしても、借主の側にも不法の点があり、前者の不法性が後者のそれに比しきわめて微弱なものに過ぎない場合には、民法第九〇条および第七〇八条は適用がなく、貸主は貸金の返還を請求することができるものと解するのを相当とする。