判旨
受取人欄を白地のまま交付された約束手形は、特段の事情がない限り、作成者が後日第三者に補充させる意思で振り出した白地手形と推定される。また、代表取締役を退任した後も、後任者が就任するまでは従前の職務権限を有する(権利義務取締役)。
問題の所在(論点)
1.受取人欄が空欄のまま交付された手形は、補充権を付与した白地手形と解されるか。2.代表取締役を退任した者が、後任者の就任前にした行為は、代表取締役としての適法な職務権限に基づくものといえるか(権利義務取締役の権限)。
規範
1.受取人を表示すべき部分を空白としたまま第三者に交付された約束手形は、特段の事情のない限り、作成者が後日第三者をして補充させる意思をもって振り出した「白地手形」と認めるのが相当である。2.取締役を退任した者であっても、後任者が就任するまでの間は、法令(旧商法261条3項、258条1項)に基づき、代表取締役としての職務権限を有する(権利義務取締役)。
重要事実
上告人は、受取人欄を空白にしたまま約束手形を用紙として第三者に交付した。その後、被上告人会社(代表取締役E)およびその後者Gによって白地裏書がなされ、手形が転々と流通した。Eは昭和28年5月15日に代表取締役を退任していたが、後任のFが就任したのは昭和30年4月25日であった。この間、Eが代表取締役として行った行為の効力、および受取人白地の手形の性質が争われた。
あてはめ
1.本件手形は受取人欄が空白のまま交付されており、特段の事情も認められないため、作成者(上告人)に補充権付与の意思があったと推認され、白地手形に該当する。2.Eは昭和28年に退任したが、後任Fの就任まで代表取締役としての職務権限を保持していたため、その間の行為は有効な代表行為といえる。3.被上告人およびGによる裏書は適法な白地裏書であり、手形を適法に所持する被上告人は手形上の権利を行使し得る。
結論
本件手形は有効な白地手形であり、権利義務取締役による代表行為も有効である。したがって、被上告人は手形の適法な所持人として認められ、上告人の請求は棄却される。
実務上の射程
白地手形の成立に関する推定規定(補充権付与の意思の推定)を示す重要判例である。答案上では、受取人空欄の手形の有効性や補充権の有無が争点となる場面で使用する。また、権利義務取締役(現行会社法351条1項、346条1項)の権限が退任前と同様に及ぶことを示す際にも援用可能である。
事件番号: 昭和37(オ)1089 / 裁判年月日: 昭和38年4月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】手形法14条の規定に照らし、白地裏書がなされた手形を取得した者は、白地を補充することなくそのまま更に裏書譲渡することが可能であり、白地補充の欠缺を理由に手形権利の行使が否定されることはない。 第1 事案の概要:上告人は、本件手形の裏書が白地裏書であったところ、その白地補充が欠けていることを理由に、…