取引所の会員たる証券業者と顧客との間の株式売買委託契約については、当事者間に別段の特約がない限り、証券取引所の定める受託契約準則に従つて契約したものと認めるべきである。
証券取引所の定める受託契約準則の効力
証券取引法130条
判旨
証券取引所の受託契約準則は普通契約約款の一種であり、当事者間に別段の特約がない限り、約款内容を具体的に了知していなくても、当該約款によって契約したものと認められる。
問題の所在(論点)
証券取引所の受託契約準則が、当事者において内容の具体的な了知や積極的な準拠の意思がない場合であっても、契約の内容として法的拘束力を有するか。また、その法的性質をいかに解すべきか。
規範
受託契約準則は、証券取引法に基づき証券取引所が制定する委託売買取引に関する細則であり、普通契約約款の一種に属する。したがって、普通契約約款が支配する取引においては、当事者間に別段の特約のない限り、当事者がたとえ約款内容を具体的に了知していなくても、当該約款による拘束力が認められる。特段の反証がない限り、当事者は準則による意思を有していたと認められるべきである。
重要事実
上告人と被上告会社(証券業者)との間で、株式売買の委託による信用取引が行われた。その際、証券取引所が制定した受託契約準則(当時は大蔵大臣の免許・認可を要するもの)の効力が問題となった。上告人は、同準則の内容を具体的に認識していたわけではなく、また同準則に準拠する積極的な意思も明確には認められない状況であった。一審および原審は、特段の反証がない限り本件取引には同準則が適用されると判断し、これに基づき差損金の支払いを命じたため、上告人が上告した。
あてはめ
本件受託契約準則は、証券取引所が法に基づき制定し、公的機関の認可等を要する取引細則であり、その実質は普通契約約款であるといえる。普通契約約款が適用されるべき取引においては、個別の契約において約款を排除する特約がない限り、定型的な取引を円滑に進める趣旨から、客観的に約款に従う意思が推定される。本件において、上告人が準則の内容を知らなかったとしても、特段の反証がない限りは、同準則に依拠して取引を行う意思があったと解するのが相当である。したがって、準則の各条項(弁済期限や任意売却に関する規定等)は当事者間の契約内容となる。
結論
受託契約準則は普通契約約款として当事者を拘束する。特段の反証がない限り、準則による意思があったと認められ、上告人は同準則に基づく決済義務を免れない。上告棄却。
実務上の射程
約款の拘束力の根拠を「意思の擬制(ないし推定)」に求める伝統的な判例理論(意思推定説)を示すものである。民法改正(548条の2等)により定型約款に関する規定が整備された現在においても、合意の擬制の理屈として重要な射程を有する。答案上は、明文の定型約款に該当しない場合であっても、取引の定型性や合理性から「契約内容とする意思」を推認する際のロジックとして活用できる。
事件番号: 昭和33(オ)254 / 裁判年月日: 昭和35年10月18日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】個人事業の会社設立に際し、会社が個人時代の債務を重畳的に引き受けて同一の取引を継続した場合、会社による支払は、特段の事情がない限り、当然に会社成立後の新債務にのみ充当されるものではない。 第1 事案の概要:上告人(個人)は被上告人と石炭売買取引を行っていたが、多額の債務を負ったため会社を設立した。…