判旨
労働者が正当な理由なく健康診断を拒否し、それによって労務提供が不能となった場合、民法536条1項により報酬請求権を失い、雇用関係存続の確認を求める訴えの利益も否定される。
問題の所在(論点)
労働者が使用者の命じた身体検査を拒否したことにより労務提供が不能となった場合、労働者の報酬請求権および雇用関係の確認を求める訴えの利益はどうなるか。
規範
施設管理権や衛生管理権を有する使用者は、労働者の健康状態に疑義がある限り、日本国法令に反しない範囲で身体検査を要求できる。労働者が正当な理由なくこれを拒絶し、施設への立入りが拒否されることで労務提供が不能となった場合は、債務者の責めに帰すべき事由による履行不能として、民法536条1項により報酬請求権を喪失する。
重要事実
米駐留軍に雇用されていた労働者(上告人)が、肺浸潤により約90日間の有給休暇を取得した後、治癒証明書を提出して復職を試みた。しかし、以前の診断書と内容が異なるため、健康状態を疑った駐留軍側が指定医療施設での受診を命じたところ、上告人はこれを拒否した。駐留軍側は施設への立入りを拒絶し、上告人は雇用関係の存続確認等を求めて提訴した。
あてはめ
上告人は肺浸潤という伝染性の疑いがある疾患に罹患しており、提出された証明書の整合性にも疑義があった。このような状況下で、管理権に基づき行われた身体検査の要求は正当である。上告人は、簡単かつ容易に実行可能であった受診を「正当の理由なく拒絶」しており、その結果として施設立入りを拒否され「自ら労務の提供を履行不能に至らしめた」といえる。したがって、民法536条1項の解釈上、反対給付である報酬請求権は発生しない。
結論
労働者は報酬請求権を有せず、報酬請求権を伴わない雇用関係の存続確認を求めることは即時確定の利益を欠くため、請求は認められない。
事件番号: 昭和42(オ)1005 / 裁判年月日: 昭和43年4月9日 / 結論: 棄却
不当労働行為にあたる解雇は無効である。
実務上の射程
安全配慮義務や施設管理権に基づく受診命令の正当性と、受診拒否に伴う就労不能の帰責事由を判断する際の基準となる。特に伝染病等の集団感染の恐れがある事案や、復職時の健康確認が問題となる場面で、労働者側の協力義務を肯定する論拠として活用できる。
事件番号: 昭和35(オ)942 / 裁判年月日: 昭和36年2月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】雇用契約の合意解約について、当時の社会情勢(レッドパージ等)があったとしても、意思表示の任意性が否定されず、公序良俗違反や虚偽表示、強迫にも該当しない場合には、当該合意解約は有効である。 第1 事案の概要:上告人は、共産党員またはその同調者であることを理由に一方的な解雇(レッドパージ)を受けた旨を…
事件番号: 昭和41(オ)1306 / 裁判年月日: 昭和46年6月15日 / 結論: 棄却
甲の被用者である乙につき、第三者丙が乙の正当な組合活動を嫌忌してこれを解雇することを甲に要求し、甲が丙の意図を認識しながら乙を解雇したときは、その解雇が、甲において、丙の要求を容れて乙を解雇しなければ自己の営業の続行が不可能になるとの判断のもとに、右要求を不当なものとしながら、やむなくしたものであつても、甲に不当労働行…
事件番号: 昭和36(オ)1226 / 裁判年月日: 昭和38年6月21日 / 結論: 棄却
従業員が会社の承認を得ないで公職に就任したときは懲戒解雇する旨の就業規則条項は、労働基準法第七条の規定の趣旨に反し無効であると解すべきである。