判旨
土地改良区の総代解職を目的とする訴訟において、対象となる総代が任期満了により退職した場合には、勝訴判決を得ても解職請求を行う余地がなくなる。このため、当該判決を求める訴えの利益(実益)は失われると解すべきである。
問題の所在(論点)
総代の解職請求を目的としてなされた申請却下処分の取消訴訟等において、対象となる総代が任期満了により退職した場合、訴えの利益(判決を求める実益)は存続するか。
規範
行政処分等の取消しや確認を求める訴えにおいて、時の経過や事情の変更により、原告が勝訴判決を得たとしても当該訴訟によって回復すべき法的利益が既に消滅している場合には、訴えの利益を欠き、不適法な訴えとなる。
重要事実
被上告人(原告)らは、土地改良区の総代を解職するため、上告人(被告)に対し総代解職請求署名簿確認申請を行った。しかし上告人がこれを却下したため、被上告人は当該却下処分の取消し及び有効署名数の確認を求めて提訴した。訴訟の係属中、解職の対象とされていた総代は任期満了によって既に退職した。
あてはめ
本件訴訟の目的は、総代の解職請求を行うための前提手続である。しかし、解職の対象である総代は既に任期満了により退職している。そうであれば、仮に被上告人が本訴で勝訴判決を得たとしても、退職した者を重ねて解職することは不可能であり、もはや解職請求をする実益はないといえる。したがって、訴訟上の請求を維持する必要性は失われている。
結論
被上告人は本件判決を求める実益を失っているため、本件訴えは不適法である。原判決及び第一審判決を破棄し、請求を棄却(実質的には却下)すべきである。
実務上の射程
事件番号: 昭和26(オ)197 / 裁判年月日: 昭和30年3月31日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】解職請求に対する投票の効力に関する裁決取消訴訟において、訴訟継続中に当該公務員の任期が満了し、その職を失った場合には、もはや裁決の取消し等を求める法律上の利益は失われる。 第1 事案の概要:村長の職にあった被上告人に対し、解職請求(リコール)がなされ、これに伴う投票が実施された。上告人(選挙管理委…
役員の解職(リコール)や公職選挙に関する争訟において、任期満了や死亡等により地位の剥奪が物理的・法律的に不可能になった場合の訴えの利益の消滅に関する一般原則を示す。行政事件訴訟法9条1項後段の「回復すべき法律上の利益」を検討する際の基礎となる判例である。
事件番号: 昭和32(オ)317 / 裁判年月日: 昭和36年7月18日 / 結論: 棄却
一 特別区の長の解職請求者署名簿における個々の署名の効力を争うには、署名簿の署名の効力に関する訴訟によらなければならない。 二 特別区の長の任期が満了したときは、解職請求者署名簿の署名の効力を争う訴の利益は、失われる。
事件番号: 昭和28(オ)1420 / 裁判年月日: 昭和30年10月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】町長解職請求署名簿等の無効確認を求める訴えについて、別の署名簿に基づく解職投票が執行され、その結果が確定して争えなくなった後は、当該訴えを維持する利益は失われる。 第1 事案の概要:1. 原告(上告人)は、町長解職請求(リコール)署名簿の署名を有効とした決定および異議申立却下決定等の無効確認を求め…
事件番号: 昭和28(オ)1194 / 裁判年月日: 昭和30年9月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】普通地方公共団体の長の解職請求における署名の効力は、地方自治法が定める独立の争訟手続によってのみ争うことができ、解職投票の効力を争う訴訟において主張することはできない。また、解職投票において解職賛成が過半数に達し、その効力が確定した後は、署名の効力を争う訴えの利益は消滅する。 第1 事案の概要:上…