一 特別区の長の解職請求者署名簿における個々の署名の効力を争うには、署名簿の署名の効力に関する訴訟によらなければならない。 二 特別区の長の任期が満了したときは、解職請求者署名簿の署名の効力を争う訴の利益は、失われる。
一 特別区の長の解職請求者署名簿における個々の署名の効力を争う方法。 二 特別区の長の任期満了後における解職請求者署名簿の署名の効力を争う訴の利益。
地方自治法283条,地方自治法81条,地方自治法74条の2,地方自治法255条の4
判旨
地方自治法に基づく特別区の長の解職投票の効力を争う訴訟は、任期満了により区長たる身分を回復する余地がなくなった場合には、訴えの利益を失う。また、解職投票の前提となる署名の効力を争う訴訟も、本体である投票効力訴訟が訴えの利益を失った場合には、同様に却下を免れない。
問題の所在(論点)
1. 地方自治法上の解職投票の効力を争う訴訟において、任期満了後も「訴えの利益」が認められるか。 2. 解職投票の前提となる署名の効力を争う訴訟の利益は、本体である解職投票の効力訴訟の運命に左右されるか。
規範
特別区の長の解職処分の取消訴訟は、判決により解職のなかった状態に復帰し、失われた身分の回復を図ることを目的とする。したがって、任期満了によって身分を回復する法的可能性がなくなった場合には、訴えの利益を失う。また、解職請求の署名の効力を争う訴訟は、解職投票の効力訴訟を維持するためにのみ存在意義を有するものであるから、後者が訴えの利益を失った場合には、前者の訴えの利益も消滅する。
重要事実
特別区(渋谷区)の長であった上告人が、自身の解職(リコール)請求における署名の有効決定等の取消しを求めて提訴した。訴訟の係属中に上告人の本来の任期(4年)が満了したため、行政機関としての区長の地位を回復する余地がなくなった。上告人は、給与請求権等の経済的利益の回復のために訴えの利益が維持されるべきであると主張して上告した。
事件番号: 昭和28(オ)1194 / 裁判年月日: 昭和30年9月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】普通地方公共団体の長の解職請求における署名の効力は、地方自治法が定める独立の争訟手続によってのみ争うことができ、解職投票の効力を争う訴訟において主張することはできない。また、解職投票において解職賛成が過半数に達し、その効力が確定した後は、署名の効力を争う訴えの利益は消滅する。 第1 事案の概要:上…
あてはめ
上告人は任期満了により既に区長たる身分を失っており、解職処分を取り消したとしても身分を回復することはできない。区長たる身分に随伴する報酬請求権等の経済的利益は、身分回復を目的とする訴訟において独立して訴えの利益を維持させる根拠とはならない。本件署名効力訴訟は、解職投票の前提要件を争うものであるが、本体である投票効力訴訟自体が任期満了により訴えの利益を欠く以上、その前提を争う本訴も存在意義を失い、不適法となる。
結論
任期満了により区長の身分回復が不可能となった以上、投票の効力およびその前提となる署名の効力を争う訴訟はいずれも訴えの利益を欠き、却下される。
実務上の射程
行政事件訴訟法9条1項後段の「回復すべき法律上の利益」に関する判例であり、議員や首長の身分喪失事案におけるスタンダードな判断枠組みを示す。附随的な金銭的利益(給与等)があっても、身分そのものの回復が不可能な場合は訴えの利益を否定する実務上の指針となる。
事件番号: 昭和26(オ)197 / 裁判年月日: 昭和30年3月31日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】解職請求に対する投票の効力に関する裁決取消訴訟において、訴訟継続中に当該公務員の任期が満了し、その職を失った場合には、もはや裁決の取消し等を求める法律上の利益は失われる。 第1 事案の概要:村長の職にあった被上告人に対し、解職請求(リコール)がなされ、これに伴う投票が実施された。上告人(選挙管理委…
事件番号: 昭和31(オ)974 / 裁判年月日: 昭和33年10月3日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】土地改良区の総代解職を目的とする訴訟において、対象となる総代が任期満了により退職した場合には、勝訴判決を得ても解職請求を行う余地がなくなる。このため、当該判決を求める訴えの利益(実益)は失われると解すべきである。 第1 事案の概要:被上告人(原告)らは、土地改良区の総代を解職するため、上告人(被告…
事件番号: 昭和28(オ)1420 / 裁判年月日: 昭和30年10月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】町長解職請求署名簿等の無効確認を求める訴えについて、別の署名簿に基づく解職投票が執行され、その結果が確定して争えなくなった後は、当該訴えを維持する利益は失われる。 第1 事案の概要:1. 原告(上告人)は、町長解職請求(リコール)署名簿の署名を有効とした決定および異議申立却下決定等の無効確認を求め…
事件番号: 昭和28(オ)1122 / 裁判年月日: 昭和30年9月22日 / 結論: 棄却
地方公共団体の長の解職賛否投票で有効投票の過半数が解職に賛成であつた場合、右投票の効力について争訟の提起がない以上、解雇請求者署名簿の署名の効力に関する訴は、これを維持する利益が失われる。