判旨
即決和解の条項が一方当事者に著しく有利であっても、賃貸借解除後の経緯や返り証の不存在等の諸事情を勘案し、通謀虚偽表示等の瑕疵が認められない限り、当該和解は有効である。
問題の所在(論点)
即決和解の内容が一方当事者に著しく有利である場合、当該和解を民法94条1項の通謀虚偽表示として無効と解すべきか。また、詐欺(96条1項)や錯誤(95条)の成否が問題となる。
規範
意思表示の瑕疵(民法94条1項、95条、96条1項)の成否は、契約条項の不均衡という客観的側面のみならず、契約締結に至る前後の経緯や、虚偽であることを示す事後的な証拠(返り証等)の有無といった主観的・動機的側面を総合して判断すべきである。
重要事実
上告人A1と被上告人との間で即決和解が成立したが、その条項は被上告人にとって著しく有利な内容であった。この和解は、被上告人が上告人A1に対して本件建物の賃貸借解除を通告した後になされたものである。上告人等は、本件和解は通謀虚偽表示であり、あるいは詐欺や要素の錯誤によるものであるとしてその無効を主張した。しかし、上告人等において、和解が無効であることを証する「返り証」等を被上告人から得ていた事実は立証されなかった。
あてはめ
本件和解条項が被上告人に著しく有利である点は認められる。しかし、本件和解は賃貸借解除の通告後という法的紛争が顕在化した状況下で行われている。また、もし通謀虚偽表示であれば当然に存在するはずの「返り証」を上告人等が受領したという主張・立証がない。これらの事実を総合すれば、条項の著しい不均衡があるからといって、直ちに通謀虚偽表示、詐欺、あるいは要素の錯誤があるとは断定できない。したがって、原審の認定に違法はない。
結論
本件即決和解に通謀虚偽表示等の瑕疵は認められず、有効である。上告棄却。
事件番号: 昭和27(オ)813 / 裁判年月日: 昭和30年12月16日 / 結論: 棄却
一 甲乙間に成立した和解契約の履行確保のため、甲が乙の委託により乙の代理人として選任した弁護士丙の裁判上の和解の申立に基き、甲乙間に右和解契約どおりの内容の和解調書が作成されたところ、その後乙が丙に対する代理権授与の真実を争い甲に対し右和解の無効確認の訴訟を提起した場合において、丙が甲の代理人としてこれに応訴し訴訟を迫…
実務上の射程
契約内容の著しい不均衡(暴利行為に近い事情)があったとしても、即決和解のような裁判上の手続を経る場合、他の外形的事実(解除通告の先行や返り証の欠如)によって意思表示の有効性が肯定されやすいことを示している。実務上、虚偽表示を主張する際は、主観的合意を裏付ける客観的証拠の重要性を強調する際の反面教師的事例として活用できる。
事件番号: 昭和34(オ)24 / 裁判年月日: 昭和36年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】弁護士法25条1号等に抵触し訴訟法上無効とされる裁判上の和解であっても、後に当事者間で別途私法上の合意が成立すれば、その合意に基づき和解内容と同様の私法上の権利義務関係を発生させることができる。 第1 事案の概要:上告人A2と被上告人Bとの間でなされた裁判上の和解について、担当弁護士Dが弁護士法2…
事件番号: 昭和27(オ)414 / 裁判年月日: 昭和28年12月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物の所有を目的とする土地の賃貸借契約が存在する場合、その家屋が敷地上に現実にいかなる方法で建築されているかは、特段の事情がない限り、借地法の適用の有無に影響しない。 第1 事案の概要:上告人と被上告人の間には、本件家屋の敷地について賃貸借契約が存在すること自体に争いはなかった。しかし、その敷地上…
事件番号: 昭和33(オ)976 / 裁判年月日: 昭和35年12月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】意思表示の動機に錯誤がある場合、その動機が相手方に表示され、意思表示の内容となったときに限り、法律行為の要素の錯誤として取り扱われる。 第1 事案の概要:上告人は、本件調停による和解契約において、対象となる土地が「自作地」であるにもかかわらず「小作地」であると誤信した。上告人は、小作地であれば経済…