一 甲乙間に成立した和解契約の履行確保のため、甲が乙の委託により乙の代理人として選任した弁護士丙の裁判上の和解の申立に基き、甲乙間に右和解契約どおりの内容の和解調書が作成されたところ、その後乙が丙に対する代理権授与の真実を争い甲に対し右和解の無効確認の訴訟を提起した場合において、丙が甲の代理人としてこれに応訴し訴訟を迫行したときは、丙の右訴訟行為は、弁護士法第二五条第一号に違反するものと解するのが相当である。 二 弁護士法第二五条第一号違反の訴訟行為であつても、相手方がこれにつき異議を述べなかつたときは、訴訟法上完全に効力を生じ、相手方は、後日に至りその無効を主張することは許されないものと解するのが相当である。
一 弁護士法第二五条第一号違反行為の一事例 二 弁護士法第二五条第一号違反の訴訟行為の効力
弁護士法25条
判旨
弁護士法25条1号に違反する訴訟行為は、相手方が遅滞なく異議を述べない限り、訴訟法上有効である。同条は弁護士の品位保持と当事者の利益保護を目的とするが、無条件に無効とすれば当該弁護士を信頼した当事者に不測の損害を与え、制度の趣旨に反するからである。
問題の所在(論点)
弁護士法25条1号(相手方の協議を受けて賛助した事件等についての職務執行禁止)に違反する弁護士の訴訟行為の効力、およびその無効主張の許否。
規範
弁護士法25条1号の規定は、弁護士の品位保持と当事者の利益保護を目的とするものである。同条に違反する訴訟行為であっても、相手方がこれにつき異議を述べ、裁判所に排除を求めなかったときは、訴訟法上完全に効力を生ずる。一度異議を述べずに進行した後は、後日に当該違反を理由として無効を主張することは許されない。
重要事実
上告人ら(X)は、被上告人(Y)との間で土地使用に関する和解契約を締結し、裁判上の和解調書作成のための代理権を弁護士Dに委託した。DはXの代理人として和解を成立させたが、後にXは「Dに代理権を与えていない」と主張して和解無効確認訴訟を提起した。この訴訟において、YはかつてXの代理人であったDを訴訟代理人に選任し、DはYの代理人としてXと対抗する形で訴訟を追行した。Xは第一審・第二審を通じて、DがYの代理人を務めることについて異議を述べていなかった。
あてはめ
DがかつてXの代理人として和解に関与しながら、本件訴訟においてその和解の効力を争うXの相手方(Y)の代理人を務めたことは、弁護士法25条1号に違反する。しかし、同条違反を無効とすれば、その弁護士を信頼して委任した当事者(Y)に不測の損害を及ぼし、弁護士代理制度の法意に反するおそれがある。本件において、相手方であるXは第一審および第二審の終結に至るまで、Dの訴訟行為に対して何ら異議を述べていない。したがって、Dによる訴訟行為は有効なものとして確定しており、上告段階に至ってその無効を主張することは許されない。
結論
弁護士法違反の訴訟行為であっても、相手方が適時に異議を述べなかった以上、当該行為は有効であり、後からその無効を主張することはできない。
実務上の射程
訴訟代理権の欠缺(民事訴訟法34条・54条)とは異なり、弁護士法25条違反は「当事者の利益保護」を目的とする相対的な禁止規定であることを強調する際に用いる。答案上は、相手方が異議なく応訴した場合には瑕疵が治癒(追認に近い構成)され、信義則上も無効主張が封じられるという文脈で活用できる。
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