判旨
民法110条の表見代理が成立するためには、行為時に基本代理権が存在していることを要し、過去に存在したものの既に消滅した代理権を基本代理権とすることはできない。
問題の所在(論点)
民法110条の権限外の行為における表見代理の成否において、すでに消滅した代理権を「基本代理権」として認めることができるか。
規範
民法110条の表見代理が認められるためには、表見代理人が当該行為をするに際し、何らかの適法な代理権(基本代理権)を有していることが必要である。一度きりの代理権の行使によって既に消滅した過去の代理権は、同条にいう基本代理権には当たらない。
重要事実
上告人の代理人Eは、昭和28年3月、Dから立木を買い受ける契約を上告人のために締結した。その後、同年6月、Eは上告人を代理して、D及び被上告人との間で、売買残代金の支払に代えて被上告人との間に準消費貸借契約を締結した。しかし、Eにはこの準消費貸借契約を締結する権限はなかった。原審は、Eに売買契約締結の代理権があったことを理由に、110条の表見代理の成立を認めた。
あてはめ
Eが上告人を代理してDとの間で売買契約を締結した代理権は、当該契約の締結という一回の行使によって消滅している。本件準消費貸借契約が締結されたのはその3ヶ月後であり、契約時点においてEは何ら法律行為をなし得る権限を有していなかった。したがって、消滅済みの代理権を基本代理権として110条を適用した原審の判断には、基本代理権の存在に関する審理不尽および理由不備があるといえる。
結論
表見代理の成立を認めるためには行為時の基本代理権の存在を要するため、既に消滅した代理権を基礎として民法110条を適用することは認められない。
実務上の射程
110条適用の前提として、行為時点での基本代理権の存否を厳格に認定すべきことを説く。なお、代理権消滅後の表見代理については、別途112条(現行法では112条1項・2項)の適用の成否を検討すべき局面であることに留意する。
事件番号: 昭和32(オ)303 / 裁判年月日: 昭和35年2月19日 / 結論: 破棄差戻
勧誘外交員を使用して一般人を勧誘し、金員の借入をしていた会社の勧誘員甲が、事実上長男乙をして一切の勧誘行為にあたらせて来たというだけでは、乙を甲の代理人として民法第一一〇条を適用することはできない。