詐欺罪の告訴を受け、ために名誉もしくは信用を毀損されたものとして、不法行為による損害賠償を請求する場合に、右告訴事件につき、詐欺の事実は認められないから不起訴にするとの通知をうけたという事実だけでは、いまだ告訴人が被告訴人の名誉もしくは信用を毀損するにつき、故意または過失があつたものと推定することはできない。
不起訴処分と不法行為における故意過失の推定。
判旨
告訴が不法行為を構成するためには、告訴人が被告訴人の名誉や信用を毀損することにつき故意または過失があったことが必要であり、検察官による不起訴決定の事実のみをもって直ちにその故意・過失を推定することはできない。
問題の所在(論点)
告訴が不起訴に終わった場合、それだけで告訴人の故意・過失が推定され、名誉毀損等の不法行為が成立するか。
規範
告訴行為が名誉毀損等の不法行為(民法709条)を構成するためには、単に告訴事実が真実でないのみならず、告訴人が被告訴人の名誉または信用を毀損することについて故意または過失があったことを、賠償請求をする側が主張・立証しなければならない。検察官による不起訴決定の存在は、直ちに告訴人の故意・過失を推認させるものではない。
重要事実
上告人は被上告会社から大豆を買い受けたが、被上告会社はこれを詐欺罪に当たるとして上告人を告訴した。上告人は数々の役職を歴任する人物であったが、この告訴により名誉・信用を毀損され、営業利益を失ったと主張。後に検察官から「詐欺の事実は認められない」として不起訴決定が出されたことを根拠に、被上告会社に対し不法行為に基づく損害賠償債権を自働債権とする相殺の抗弁を主張した。
あてはめ
本件において、被上告会社が「詐欺の事実が認められない」との理由で不起訴決定の通知を受けた事実は認められる。しかし、検察官の不起訴判断は直ちに告訴人の過失等を基礎付けるものではない。また、上告人は告訴内容の具体的事実すら明らかにしておらず、被上告会社の故意・過失を推断させるに足りる事実の主張・立証もなされていない。したがって、故意・過失の要件を満たさない。
結論
告訴が不起訴となった事実のみでは告訴人の不法行為責任は認められず、上告人の相殺の主張は排斥される。
実務上の射程
不法告訴の成否が争われる事案における立証責任の所在と、故意・過失の判断枠組みを示すものである。司法試験においては、不法行為の成立要件(特に過失)の検討において、結果(不起訴)から直ちに過失を導けないとする評価の視点として活用できる。
事件番号: 昭和31(オ)65 / 裁判年月日: 昭和33年2月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】損害賠償を請求する者は、損害の発生した事実のみならず、損害の具体的な数額についても立証責任を負う。したがって、損害額の立証がないことを理由として請求を排斥することは、釈明権不行使や審理不尽の違法には当たらない。 第1 事案の概要:上告人(買主)は、被上告人(売主)から買い受けた物件の一部に不良品が…