判旨
裁判所が証拠を措信せず排斥する場合、その理由を判決に一々説示する必要はなく、これは控訴審が第一審の採用した証拠を排斥する場合であっても同様である。
問題の所在(論点)
控訴審が第一審の採用した証拠を排斥する際、判決書においてその排斥理由を具体的に説示する必要があるか。証拠排斥の理由不備の成否が問題となる。
規範
裁判所が証拠を措信しないで排斥する理由については、一々判決に説示する必要はない。この理は、第一審裁判所の採用した証拠を控訴裁判所が排斥する場合においても同様に妥当し、排斥の理由を具体的に説示しなくとも理由不備の違法とはならない。
重要事実
上告人は、原審(控訴審)が第一審の採用した証拠を排斥したにもかかわらず、その理由を判決に説示しなかったことは、判決に理由を付さない「理由不備」の違法があると主張して上告した。
あてはめ
最高裁判所は、証拠の取捨選択は裁判所の裁量に属するとの立場を前提とし、証拠を排斥する理由を逐一説明することは判決の要件ではないと判断した。本件において、原審が第一審の採用した証拠を排斥しながらその理由を説示しなかった点についても、従来の判例に照らし、説示の必要性はないといえる。したがって、特段の理由説明が欠けていても民事訴訟法上の違法は認められない。
結論
原審が第一審の採用した証拠を排斥する理由を説示しなかったことは違法ではなく、理由不備の上告理由は認められない。
実務上の射程
自由心証主義(民訴法247条)に基づく事実認定において、どの証拠を採用しどの証拠を排斥するかは裁判所の合理的な裁量に委ねられている。本判決は、証拠の不採用(排斥)に関する「理由の記載」の程度について、実務上極めて限定的な要求しか課されていないことを示しており、判決書作成における裁量の幅を認めたものである。ただし、事実認定の根拠となる主要事実との関係で合理性を欠く場合は、別途、採証法則違反や論理法則・経験則違反が問題となり得る点に留意が必要である。
事件番号: 昭和32(オ)958 / 裁判年月日: 昭和33年5月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が証拠を排斥するに際してその理由を個別に説示する必要はなく、また控訴審が第1審判決の理由を引用することも適法である。 第1 事案の概要:上告人は、原審(控訴審)が特定の証人の証言やその他の証拠を採用しなかったことにつき、理由の不備がある旨を主張して上告した。また、控訴審が第1審判決の理由を引…
事件番号: 昭和32(オ)1079 / 裁判年月日: 昭和35年2月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が同一の証言の一部を採用し他を排斥する場合、判文上その区分が了知できれば足り、逐一内容を列記して明示したり排斥の理由を示したりする必要はない。 第1 事案の概要:上告人(合資会社A1およびA2株式会社)は、土地建物の所有権取得に関する原審の事実認定につき、証拠の取捨選択に不備があるとして上告…
事件番号: 昭和25(オ)129 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所は、証拠の採否について自由な心証を有するものであり、採用しなかった証拠についてその理由を判決書に記載する必要はない。 第1 事案の概要:上告人は、原審が特定の証人の証言を採用しなかったにもかかわらず、その理由を説明しなかったことは違法であると主張して上告した。また、訴訟物の価格の算定、事実認…