判旨
被用者がその職務権限の範囲外であっても、客観的に見て被用者の職務の範囲に属すると認められる行為により他人に損害を与えた場合は、民法715条1項の「事業の執行について」に該当する。また、被害者に過失がある場合には、裁判所はその裁量により損害賠償額を減額することができる。
問題の所在(論点)
民法715条1項の「事業の執行について」の意義、および同法722条2項に基づく過失相殺の適法性が問題となった。
規範
民法715条1項にいう「事業の執行について」とは、被用者が現にその職務として命ぜられた行為のみならず、客観的に見て当該被用者の職務の範囲に属すると認められる行為を包含する。また、同法722条2項の過失相殺については、裁判所の合理的な自由裁量に委ねられており、その判断が裁量権の逸脱と認められない限り、適法なものとされる。
重要事実
上告会社(被告・旅館)の被用者である女中Dは、客からの預り品の受渡業務を分担していた。同じく被用者のEは玄関番であったが、実態として預り品の受渡業務にも携わっていた。Dは客Fから本件鞄を受け取り、慣例に従ってEに引き渡したが、その後Eが鞄内の金銭51万7000円のうち、55万円中51万7000円(※原文ママ)を窃取する事故が発生した。被害者Fにも管理上の過失が認められたため、原審はこれを斟酌し、損害賠償額を30万円に軽減した。
あてはめ
被用者Dは本来の職務として預り品受渡を担当しており、また玄関番Eも日常的に当該業務に携わっていた。したがって、両名が客から鞄を預かり保管する行為は、客観的に見て上告会社の事業の執行の範囲内にあるといえる。次に、損害額の算定において、原審は実損害額51万7000円に対し、被害者Fの過失を考慮して約21万7000円を減額し、30万円の賠償を命じた。これは裁判所に認められた過失相殺の裁量権の範囲内であり、不当とはいえない。
結論
本件事故は民法715条1項の「事業の執行について」惹起されたものであり、上告会社は使用者責任を免れない。また、原審による過失相殺後の損害賠償額の認定も適法である。
実務上の射程
被用者の行為が外形的に職務の範囲内であれば使用者責任を認める「外形標準説」を前提とした判断である。答案上は、被用者の本来の職務内容と、当該不法行為が客観的にその職務に関連して行われたといえるかという事実を摘示して「事業の執行について」を認定する際に活用できる。
事件番号: 昭和35(オ)331 / 裁判年月日: 昭和37年5月18日 / 結論: 棄却
当該相互銀行の内部規約上、外務員には無尽契約の掛金集金の権限のみが与えられ顧客から預金のための金員を受領する権限が与えられていなかつたとしても、外務員が右銀行の被用者として右を受領する慣行があり、銀行もこれを黙認していたなどの事情のもとで、外務員が右銀行名義の定期預金証書を作成し顧客から定期預金のためとして金員の交付を…