判旨
賃料を金銭で支払う合意があれば、具体的数額の確定を後日に譲った場合でも賃貸借契約は成立し、給付内容が将来確定可能であれば債権関係の成立を妨げない。
問題の所在(論点)
賃料の具体的数額が未確定である場合に、賃貸借契約が有効に成立するか。また、具体的賃料額の合意がない状態でなされた賃料支払の催告が適法といえるか。
規範
賃貸借契約を含む債権関係の成立には、当初から給付内容が具体的に確定している必要はなく、客観的に確定しうる状態にあれば足りる。具体的には、賃料の支払合意があれば、その具体的数額の決定を後日の協議に委ねたとしても、直ちに契約の成立が否定されるものではない。
重要事実
賃貸人(上告人)と賃借人(被上告人の被相続人D)は、従来の賃貸借の目的範囲を変更し、建物の一部を返還した残部について、引き続きDが金銭を支払って使用収益する旨を合意した。しかし、具体的賃料額については合意に至っておらず、当時の地代家賃統制令に基づく知事の認可も受けていなかった。上告人は内容証明郵便で賃料額を一方的に指定して請求したが、Dはこれに応じなかった。上告人は賃料不払を理由とする解除を主張した。
あてはめ
当事者間では賃料を金銭で支払う旨の合意がなされているから、数額が具体的に確定していなくとも賃貸借という債権関係は成立する。しかし、本件では賃料額を後日の合意で確定させる趣旨であったところ、合意は成立しておらず、また客観的な額を定める認可処分もなされていない。さらに、合意不成立時に債務者が一定の範囲で応ずる約旨や具体的履行期の約旨も認められない。そうであれば、上告人が一方的に決定した賃料額に基づく催告は、債務を確定させるものとはいえず、不適法であると解される。
結論
具体的数額が未確定でも賃貸借契約は成立しうるが、賃料額の決定基準や履行期の約旨がない以上、一方的な指定による催告は不適法であり、解除は認められない。
実務上の射程
契約の成立(民法601条)と給付の確定性に関する基本判例。実務上は、賃料等の基幹的要素が未定でも「予約」ではなく「本契約」の成立を認める余地を示す。ただし、解除の前提となる催告の適法性を認めるには、客観的な数額の算定根拠や確定手続が必要となる点に注意を要する。
事件番号: 昭和37(オ)138 / 裁判年月日: 昭和37年8月3日 / 結論: 棄却
賃料額の具体的約定はなされなくても、当事者間に社会通念上相当とされる対価を支払うべき合意があるときは、賃貸借契約が有効に成立する。