使用者に対し、陳謝文という題の下に、使用者が労働組合の組合員に対し仕事上の差別取扱いをしたことが労働委員会により不当労働行為であると認定された旨及び使用者が労働組合とその組合員に対し右不当労働行為を行つたことについて深く陳謝すると共に今後このような行為を繰り返さないことを約する旨の文言を墨書した白色木板を掲示するよう命じたポストノーティス命令は、使用者に対し陳謝の意思表明を強制するものではなく、憲法一九条に違反するものとはいえない。
ポストノーティス命令が憲法一九条に違反するものとはいえないとされた事例
憲法19条,労働組合法27条4項
判旨
ポストノーティス命令における「深く陳謝する」との文言は、再発防止の約束を強調する趣旨であって、謝罪という意思表明を強制するものではないため、憲法19条に違反しない。
問題の所在(論点)
ポストノーティス命令において「深く陳謝する」との文言を命じることが、憲法19条が保障する思想・良心の自由を侵害し、労働委員会の裁量権を逸脱する不当な命令にあたるか。
規範
労働委員会による救済命令としてのポストノーティス命令は、不当労働行為の事実を関係者に周知させ、同種行為の再発を抑制することを目的とする。命令文中に「陳謝する」等の文言が含まれていても、それが再発防止の約束を強調する趣旨であり、特定の思想信条や謝罪という意思表明そのものを強制する趣旨でない限り、憲法19条(思想及び良心の自由)には違反せず、労働委員会の裁量権の範囲内にある。
重要事実
上告人(使用者)は、参加人組合の組合員に対し仕事上の差別取扱いを行った。これが労働組合法7条1号・3号の不当労働行為に該当すると判断された際、労働委員会(被上告人)は、不当労働行為の認定事実を周知させ、今後同様の行為を繰り返さない旨を掲示させるポストノーティス命令を発した。その文案中に「深く陳謝する」という文言が含まれていたため、上告人はこれが良心の自由を侵害し、裁量権を逸脱するものであるとして争った。
事件番号: 昭和63(行ツ)102 / 裁判年月日: 平成2年3月6日 / 結論: 棄却
医療法人に対し、誓約書という題の下に、「当社団が行つた次の行為は、神奈川県地方労働委員会により不当労働行為と認定されました。当社団は、ここに深く反省するとともに今後再びかかる行為を繰り返さないことを誓約します。」との文言を墨書した白色木板を当該法人経営の病院入口に掲示するよう命じたポストノーティス命令は、当該法人に対し…
あてはめ
本件命令における「深く陳謝する」との文言は、措辞として適切さを欠く面はあるものの、実質的には不当労働行為を繰り返さないという「再発防止の約束」を強調する趣旨で用いられている。したがって、上告人に対して内心の謝罪という意思表明を要求すること自体を目的としたものではないと解される。このような趣旨での掲示命令は、不当労働行為の救済および再発防止という行政目的の達成に資するものであり、裁量権の逸脱も認められない。
結論
本件ポストノーティス命令は、上告人の思想・良心の自由を侵害するものではなく、裁量権の範囲内として適法である。
実務上の射程
労働救済におけるポストノーティス命令の限界を示す重要判例である。謝罪広告(最判昭31.7.4)の法理を背景にしつつ、労働委員会の広範な裁量を認める傾向にある。答案上は、良心の自由の侵害が問題となる場面で「内心の自由を直接強制するものか、単なる事実の周知や再発防止の約束か」を区別する際のメルクマールとして活用できる。
事件番号: 昭和56(行ツ)205 / 裁判年月日: 昭和60年7月19日 / 結論: その他
一 法律上独立した権利義務の帰属主体でない法人組織の構成部分は、労働組合法二七条及び七条所定の使用者に当たらない。 二 法律上独立した権利義務の帰属主体でない法人組織の構成部分を名宛人とする救済命令は、当該法人に対し命令の内容を実現することを義務付けるものとして、効力を有する。 三 法律上独立した権利義務の帰属主体でな…
事件番号: 昭和61(行ツ)56 / 裁判年月日: 平成元年1月19日 / 結論: 棄却
使用者がその企業内に併存する甲乙二つの労働組合との間の組合掲示板貸与に関する交渉に当たり、両組合に対して同一の貸与条件を提示し、これを受け入れた甲組合に対しては組合掲示板を貸与し、これを拒否した乙組合に対してはその貸与を拒否した場合において、乙組合に対して組合掲示板の貸与を拒否した使用者の行為は、右貸与条件の内容が、掲…
事件番号: 昭和59(行ツ)235 / 裁判年月日: 昭和62年4月2日 / 結論: その他
不当労働行為によつて解雇された労働者が解雇期間中他の職に就いて収入を得ていた場合に、労働委員会が、右労働者の救済命令において解雇期間中の賃金相当額の遡及支払を命ずるに当たり、当該解雇が右労働者の属する労働組合の他の組合員に対する出勤停止処分と共に右労働組合に対し打撃を加える目的の下にされたものであるとの事情を考慮に入れ…
事件番号: 昭和61(行ツ)109 / 裁判年月日: 昭和62年4月16日 / 結論: 棄却
一 労働委員会規則四二条二項による意見聴取は、審問に参与した使用者委員及び労働者委員に公益委員会議への出席を求め、その席上で右委員の意見を聴取する方法によるものでなければならない。 二 公益委員会議が労働委員会規則四二条二項に違反し、審問に参与した使用者委員及び労働者委員の意見を聴取しなかつたとしても、それによつて救済…