積雪が減少したためスキー場管理者がスキー場の閉鎖を決定した日から一〇日以上を経た暖かい日に、指導員の資格をもつベテランスキーヤーが、スキー場の閉鎖の掲示を見過ごした上、リフトを降りてから事故現場に至るまでのコースのすべてにテープによる閉鎖の表示がされているのを知りながら、スキー場管理者が年間を通じてほとんど滑降を禁止している急傾斜地において、前方にクレバスが見えているのにその付近に向かって滑降したところ、付近の雪が崩落し、クレバスに転落して負傷したものであるなど判示の事実関係の下においては、スキー場管理者が事故現場付近のコースに閉鎖の表示をしないまま、スキー場閉鎖後もリフトを運行してスキーヤーを運んでいたとしても、右転落事故は、スキー場管理者の管理の過失によるものとはいえない。
スキーヤーがクレバスに転落して負傷した事故がスキー場管理者の管理の過失によるものとはいえないとされた事例
民法709条
判旨
スキー場管理者の安全配慮義務違反の有無は、時期や地形に伴う客観的な危険の予知可能性および利用者の属性を考慮して判断される。シーズン末期で危険が当然に予知できる状況下において、ベテランスキーヤーが不注意により事故に遭った場合、管理者の過失は否定される。
問題の所在(論点)
スキー場管理担当者Dに、民法44条、715条に基づく不法行為責任を基礎付ける「管理上の過失」が認められるか。特に、シーズン末期の特殊な状況下における管理者の防護措置義務の限界が問題となった。
規範
不法行為法上の注意義務(管理上の過失)の有無は、当該施設における事故発生の予見可能性および回避可能性を基準に判断される。特に自然環境を利用した施設においては、①時期相応の客観的な危険性、②利用者側において通常期待される危険予知能力、③管理者が実施した注意喚起・安全措置の程度、を総合考慮し、社会通念上相当な管理を欠いていたといえるかによって決する。
重要事実
スキー場運営会社の上告人に対し、被上告人(スキー指導員資格を持つベテラン)が2年連続でクレバスに転落し負傷したとして損害賠償を請求した事案。第一事故は、閉鎖掲示があったシーズン末期、被上告人が他のコースが閉鎖されていると知りつつ、急傾斜地で前方にクレバスが見える状況で滑降し転落。第二事故は、パトロールが危険表示の赤旗を立てたが何者かに抜き取られた後、死角を確認せず滑降し転落した。
あてはめ
第一事故について、シーズン末期は積雪減少による崩落等の危険をスキーヤーが当然に予知し得る時期である。被上告人は指導員資格を持つ者でありながら、前方に見えるクレバス付近をあえて滑降しており、専ら被上告人の過失による。第二事故について、管理者は当日午前に赤旗を立てる等の措置を講じていた。事故直前までリフトが停止しており、短時間に赤旗が抜き取られることは予見困難である。また、前年に同所で事故を起こした被上告人が、死角のある急斜面を安全確認せず飛び出した点に重大な不注意がある。したがって、いずれの事故も管理者が通常尽くすべき注意義務を欠いたとはいえない。
結論
管理者の過失は認められず、上告人らに対する損害賠償請求は棄却される。
実務上の射程
スポーツ・レジャー施設の事故における管理責任の射程を画する判例である。被害者が「ベテラン」や「指導員」といった高度な注意力が期待される属性を持つ場合、自然に内在する危険(クレバス等)に対する管理者の義務は相対的に緩和され、被害者側の自己責任が強く問われる傾向にある。
事件番号: 昭和46(オ)887 / 裁判年月日: 昭和50年6月26日 / 結論: 棄却
県道上に道路管理者の設置した掘穿工事中であることを表示する工事標識板、バリケード及び赤色灯標柱が倒れ、赤色灯が消えたままになつていた場合であつても、それが夜間、他の通行車によつて惹起されたものであり、その直後で道路管理者がこれを原状に復し道路の安全を保持することが不可能であつたなど判示の事実関係のもとでは、道路の管理に…