スキー場で上方から滑降する者が下方を滑降する者よりも速い速度で滑降し、両者が接触する事故が発生した場合において、事故現場が急斜面ではなく、下方を見通すことができたなど判示の事実関係の下においては、上方から滑降する者に、前方を注視し、下方を滑降している者の動静に注意して、その者との接触ないし衝突を回避することができるように速度及び進路を選択して滑走すべき注意義務を怠った過失がある。
スキー場で発生した滑降者同士の接触事故につき上方から滑降してきた者に過失があるとされた事例
民法709条
判旨
スキー場において上方から滑降する者は、前方注視及び下方滑降者の動静注意義務を負い、接触回避のための速度・進路を選択して滑走すべき注意義務を負う。本件のように、見通しが可能な状況下で下方滑降者を発見し得た場合には、回避措置を講じるべき義務の違反(過失)が認められる。
問題の所在(論点)
スキー場における滑降者同士の衝突事故において、不法行為法(民法709条)上の過失の有無を判断する際の注意義務の内容、および本件状況下での過失の存否が問題となった。
規範
スキー場において上方から滑降する者は、①前方を注視し、下方を滑降している者の動静に注意して、②その者との接触ないし衝突を回避することができるように速度及び進路を選択して滑走すべき注意義務を負う。
重要事実
スキーの上級者である被上告人は、スキー場で上告人の上方から、上告人よりも速い速度で、小回りとパラレルを織り交ぜて滑降していた。事故現場は急斜面ではなく、降雪はあったものの下方の見通しは可能な状態であった。しかし、被上告人は進路前方右側に上告人が現れるまで気づかず、左へ方向転換した上告人と、右へ方向転換した被上告人が衝突し、上告人が負傷した。
あてはめ
被上告人は上方から速い速度で滑走しており、下方の動静に注意すべき義務(規範①)がある。本件現場は急斜面ではなく見通しも可能であったことから、被上告人は上告人との接触を避けるための措置を採り得る時間的余裕をもって上告人を発見することが可能であった。それにもかかわらず、上告人が直前に現れるまで気づかなかったことは、適切な速度・進路選択義務(規範②)を怠ったものといえる。原審が重視した「暴走や危険な滑降をしていたか否か」という主観的・限定的な事情は、過失の判断を左右しない。
結論
被上告人には注意義務を怠った過失があり、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。したがって、過失を否定した原判決は破棄を免れない。
実務上の射程
スポーツ事故における過失の判断枠組みを示す重要判例である。特に「上方滑降者の優越的注意義務」を明確にしており、スキー事故の答案では、まず本規範を定立した上で、斜面の状況や視認可能性といった客観的事実から発見・回避の可能性を論じるべきである。過失相殺(民法722条2項)の検討が必要になる点にも留意する。
事件番号: 昭和48(オ)671 / 裁判年月日: 昭和49年5月31日 / 結論: 破棄差戻
スキー・ロープ・トウ等を設置しスキー滑走場を開設している者又はこれを管理すべき立場にある者は、当該スキー滑走場においてスキー事故によつて受傷した者に対し、スキー滑走場の危険度、過去の事故数・その程度、来場するスキーヤーの能力、スキー事故の態様、状況等の具体的事情に対応する救護義務を負い、この義務を懈怠したときには民法七…