「賞与はその支給日に在籍している従業員及び嘱託に対してのみ支給する。ただし、賞与の計算期間中に在籍し支給日に在籍しない定年退職又は死亡退職の従業員及び死亡解嘱の嘱託に対しては当該賞与を支給する。」との慣行が存するときは、賞与の支給日前に嘱託期間の満了により退職した会社の嘱託は、当該賞与の計算期間中に在籍していても、当該賞与の受給権を有しない。
賞与の支給日前に嘱託期間の満了により退職した会社の嘱託が当該賞与の受給権を有しないとされた事例
労働基準法24条
判旨
賞与の受給権につき支給日に在籍することを要件とする慣行は、内容において不合理とはいえず、労働者が認識し同意しているか否かにかかわらず、事実たる慣習として効力を有する。
問題の所在(論点)
賞与の支給日に在籍していることを受給権の発生要件とする慣行が、労働者の個別の認識や同意がない場合であっても、労働契約を規律する「事実たる慣習」として有効に成立するか。
規範
賞与支給日に在籍することを支給要件とする旨の慣行(いわゆる支給日在籍要件)は、その内容において不合理なものとはいえない。このような慣行は、民法92条にいう「事実たる慣習」として、個別の労働者がその存在を認識し、かつこれに従う意思を有していたかどうかにかかわらず、労働契約の内容を規律する効力を有する。
重要事実
会社には、賞与はその支給日に在籍している従業員等に対してのみ支給し、計算期間中に在籍していても支給日に在籍しない退職者には原則として支給しない(ただし定年・死亡退職等は除く)という慣行があった。元従業員である上告人は、定年退職後に嘱託として勤務していたが、嘱託期間の満了により昭和56年11月末日に退職した。会社は同年12月4日に年末賞与を支給したが、支給日に在籍していなかった上告人には賞与を支給しなかったため、上告人が受給権を主張して提訴した。
あてはめ
本件における支給日在籍要件の慣行は、賞与の性格(賃金後払的性格、功労報償的性格、将来の意欲向上等)に照らし、内容において不合理とはいえない。したがって、本件慣行は「事実たる慣習」に該当し、労働契約の内容をなす。上告人が本件慣行を認識し、これに従う意思を有していたかは問わない。上告人は賞与支給日である12月4日より前の11月末日に嘱託期間満了により退職しており、定年退職等の例外事由にも当たらないため、支給日に在籍していない以上、受給権は発生しないといえる。
結論
上告人は本件賞与の受給権を有しない。支給日に在籍することを要件とする慣行は有効であり、これに基づき上告人の請求を棄却した原審の判断は正当である。
実務上の射程
本判決は、就業規則に明文の規定がなくとも、確立した「慣行」があれば支給日在籍要件が有効となり得ることを示した。実務上、賞与の賃金後払的性格を重視して全額支給を求める主張に対し、本判例を引用して在籍要件の合理性と事実たる慣習としての有効性を主張する。ただし、退職時期を会社側が不当に操作した場合などは、信義則(民法1条2項)による制限がかかり得る点に留意が必要である。
事件番号: 平成2(オ)1860 / 裁判年月日: 平成4年2月18日 / 結論: 棄却
国民の祝日、勤務を要しない土曜日等を休日である日曜日とは別の「一般休暇日」と定め、これらが労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三九条一項にいう全労働日に含まれるものとした就業規則の規定は、当該職場における勤務関係においてこれらが休日と実質的に異ならない取扱いがされているときは、同項に違反し無効である。