取締役の報酬額には使用人兼務取締役の使用人分給与は含まれない旨を明示して取締役全員の報酬総額を改訂する株主総会決議がされた場合において、少なくとも使用人として受ける給与の体系が明確に確立されており、かつ、使用人として受ける給与がそれにより支給されている限り、右株主総会決議は、商法二六九条に違反せず、また、同条の脱法行為に当たらない。
取締役の報酬額には使用人兼務取締役の使用人分給与は含まれない旨を明示してされた取締役の報酬額改訂の株主総会決議と商法二六九条
商法269条
判旨
取締役の報酬に関する株主総会決議において、取締役全員の報酬総額を定め、具体的な配分を取締役会に委ねることは、いわゆる「お手盛り」を防止する趣旨に反せず有効である。また、使用人兼務取締役について使用人分給与を別途支給する前提で取締役分の報酬額のみを決議することも、給与体系が明確であれば脱法行為には当たらない。
問題の所在(論点)
取締役の報酬総額のみを株主総会で定め、具体的配分を取締役会に委ねる決議の適法性。また、使用人兼務取締役の使用人分給与を合算せずに取締役分報酬のみを決議することが、報酬規制の脱法行為に該当するか。
規範
会社法361条1項(旧商法269条)が取締役の報酬等につき株主総会の決議を要するとした趣旨は、取締役が自らの報酬を決定することによる「お手盛り」の弊害を防止し、株主の利益を保護する点にある。したがって、株主総会決議で取締役全員の報酬総額を定め、その具体的な配分を取締役会の決定に委ねることも許容される。この理は使用人兼務取締役の報酬決定にも妥当するが、その際、(1)使用人としての給与体系が明確に確立されており、(2)これに基づき支給されている限り、使用人分給与を除いた取締役分報酬のみを総会決議の対象としても、株主総会の監視機能は妨げられず、同条の脱法行為には当たらない。
重要事実
事件番号: 昭和38(オ)120 / 裁判年月日: 昭和39年12月11日 / 結論: 棄却
株式会社役員に対する退職慰労金支給に関する「金額、支給期日、支払方法を取締役会に一任する」との株主総会決議をした場合でも、右決議は、当該会社において慣例となつている一定の支給基準によつて支給すべき趣旨であるときは、商法第二六九条の趣旨に反して無効であるということはできない。
上告人(原告)は、被上告会社(被告)の株主総会において行われた取締役の報酬額に関する決議が、商法269条(現会社法361条1項)に違反すると主張した。当該決議では、取締役としての報酬額のみを対象とし、具体的な配分は取締役会に一任する形式をとっていた。なお、被上告会社においては使用人兼務取締役に対し、確立された給与体系に基づき、取締役としての報酬とは別に使用人としての給与が支給されていた。上告人は、このような決議が取締役の報酬総額を不透明にし、株主総会の監視機能を形骸化させる脱法行為であると主張して争った。
あてはめ
まず、具体的配分を取締役会に委ねる手法は、総額が総会で拘束されている以上、お手盛りの弊害は防止されており、有効である。次に、使用人兼務取締役の報酬について検討するに、被上告会社では使用人としての給与体系が明確に確立されており、それに基づいて適正に支給されていたといえる。この場合、株主は取締役としての報酬額を把握できれば、実質的な意味での報酬が過大か否かを十分に判断可能であり、株主総会の監視機能は果たされている。したがって、使用人分を別枠として取締役分のみを決議したとしても、報酬規制を免脱する不当なものとは評価されない。さらに、代表取締役以外の取締役が使用人を兼ねることも、機関の本質に反するものではない。
結論
本件株主総会決議は会社法361条1項(旧商法269条)の趣旨に反せず、脱法行為にも該当しないため、有効である。
実務上の射程
1.「総額決議・具体的配分一任」の方式の適法性を認めた基本判例として活用する。2.使用人兼務取締役の給与(使用人分)を報酬規制の枠外とするための要件として「給与体系の明確な確立」が重要であることを論じる際に用いる。3.答案上は、361条の趣旨から説き起こし、お手盛りの危険がないことを具体的事実(給与規定の有無等)から認定する流れで記述する。
事件番号: 昭和56(オ)695 / 裁判年月日: 昭和58年2月22日 / 結論: 棄却
退任取締役に贈呈する退職慰労金の額等の決定を取締役会に一任する株主総会の決議及び右の決定を更に取締役会長等に一任する取締役会の決議は、右の慰労金の算定に関し内規及びその運用についての慣例があり、かつ、株主がこれらを知ることができる状況にあつた等判示の事実関係のもとにおいては、商法二六九条の規定等に反するものではなく、無…
事件番号: 昭和44(オ)609 / 裁判年月日: 昭和44年10月28日 / 結論: 棄却
株式会社の役員であつた者に対する退職慰労金について、株主総会の決議により、その金額などの決定をすべて無条件に取締役会に一任することは許されないというべきであるが、これと異なり、株主総会の決議において、明示的もしくは黙示的に、その支給に関する基準を示し、具体的な金額、支払期日、支払方法などは右基準によつて定めるべきものと…
事件番号: 昭和40(オ)821 / 裁判年月日: 昭和42年7月25日 / 結論: 棄却
一 株主総会の決議は、定款に別段の定めがないかぎり、その議案に対する賛成の議決権数が決議に必要な数に達したことが明白になつた時に成立するものと解すべきであつてかならずしも挙手、起立、投票などの採決の手続をとることを要しない。 二 営業の譲渡に関する株主総会の決議について、譲渡会社の株主が譲受会社の代表取締役であつても、…
事件番号: 昭和62(オ)30 / 裁判年月日: 平成元年9月19日 / 結論: 棄却
一 市町村の助役を取締役に選任する旨の株主総会決議は、当該株式会社が地方自治法一四二条の関係私企業に該当する場合であつても、有効である。 二 商法二七六条の規定により監査役との兼任を禁止されている者を監査役に選任する旨の株主総会決議は、有効である。