国選弁護人に支給すべき報酬の額の決定は、公開の法廷における審理を経なくても、憲法三二条、八二条に違反しない。
国選弁護人に支給すべき報酬の額の決定と憲法三二条、八二条
刑事訴訟費用等に関する法律8条2項,刑訴法38条2項,憲法32条,憲法82条
判旨
国選弁護人と国との間には委任等の契約関係はなく、報酬等の請求権は刑事費用法に基づき受訴裁判所の裁量による形成的な決定によって確定する。そのため、国選弁護人は当該決定を離れて客観的に定まった額を請求することはできず、別訴によって決定を覆すことも許されない。
問題の所在(論点)
国選弁護人と国との間に委任契約関係が認められるか、また、国選弁護人が受訴裁判所の決定した額を超えて、適正な額の報酬を民事訴訟(別訴)で直接請求できるか。
規範
国選弁護人の選任は裁判長の権限に基づく一方的な意思表示であり、国との間に委任契約関係は成立しない。したがって、報酬請求権の存否及び額は法律(刑事費用法8条)に委ねられる。具体的には、受訴裁判所が事件の難易や活動状況等を総合考慮し、その裁量により形成的に決定するものであって、客観的な額があらかじめ定まっているものではない。このような決定は非訟事件の性質を有し、憲法32条・82条が定める対審・判決を要する「純然たる訴訟事件」には当たらない。
重要事実
弁護士である上告人は、窃盗被告事件の国選弁護人に選任され、公判への出頭等の活動を行った。上告人は日当・報酬等として計7万4405円を請求したが、簡易裁判所は刑事費用法に基づき、計2万6065円を支給する旨の決定(本件支給決定)をした。上告人は、この額は不当に低く適正な額ではないと主張し、国(被上告人)に対して差額等の支払を求めて民事訴訟を提起した。なお、決定された額については既に弁済供託されていた。
あてはめ
国選弁護人制度の趣旨(憲法37条3項)からすれば、その関係は公法上の選任によるものであり、私法上の委任関係ではないといえる。刑事費用法8条が報酬額を受訴裁判所の裁量に委ねている以上、国選弁護人の権利は当該形成的な決定があって初めて具体化する。本件では、受訴裁判所が裁量により2万6065円と決定した以上、上告人が請求できるのはその額に限定される。上告人は、対審・判決による報酬確定を主張するが、本件決定は非訟事件の性質を有するものであり、公開の法廷での審理を要する固有の司法権の作用ではないため、別訴による争訟は認められない。
結論
国選弁護人は、受訴裁判所が決定した額の日当・報酬を請求し得るにとどまり、別訴によりその決定を覆すことはできない。本件請求は理由がない。
実務上の射程
司法試験においては、国選弁護の法的性質(公法上の法律関係)や、報酬決定の裁量権の所在を問う問題で活用できる。また、憲法上の「裁判を受ける権利」と非訟事件の区別に関する論証の文脈でも、具体例として引用可能である。
事件番号: 昭和24新(れ)250 / 裁判年月日: 昭和25年6月7日 / 結論: 棄却
辯護人の報酬等の費用を何人に負擔せしめるかという問題は憲法第三七條第三項の規定の關知するところではなく法律をもつて適當に規定し得る事柄であるかと解すべきである。そして國選辯護人を選任するのは被告人の利益のためであるからその費用は被告人に負擔させるのが適當であつて若し被告人が貧困のためその費用を完納することができないとき…
事件番号: 昭和62(し)120 / 裁判年月日: 昭和63年11月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】国選弁護人に支給すべき報酬額の決定は、刑事訴訟費用等に関する法律(刑訴費用法)に基づく裁判であって刑事訴訟法上の裁判ではないため、同法に基づく抗告等の不服申立ては許されない。 第1 事案の概要:国選弁護人である抗告人が、裁判所による報酬額の決定に対し、不服申立ての途が設けられていないのは不当である…
事件番号: 昭和62(し)70 / 裁判年月日: 昭和63年11月29日 / 結論: 棄却
国選弁護人に支給すべき報酬額の決定に対しては刑訴法に準拠する不服申立をすることは許されず、このように解しても憲法三二条、三七条三項に違反しない。