約束手形の取立委任裏書を受けてこれを所持している者が、裏書人との間で当該手形の譲渡を受ける旨の合意をして、後日右裏書中の取立委任文言を抹消しても、右裏書が譲渡裏書としての効力を生ずるのは、取立委任文言の抹消の時からであつて、譲渡の合意の成立時に遡つてその効力を生ずるものではない。
約束手形の裏書に付加された取立委任文言が抹消された場合と譲渡裏書としての効力を生ずる時期
手形法12条,手形法18条,手形法77条
判旨
取立委任裏書がなされた手形の所持人が、裏書人との間で手形譲渡の合意をしても、取立委任文言の抹消等の譲渡のための処理がなされない限り、譲渡裏書としての効力は生じない。後日文言を抹消した場合でも、その効力は抹消時から発生し、譲渡合意時に遡及しない。
問題の所在(論点)
取立委任裏書がなされた手形について、譲渡の合意があったものの手形上の処理が満期後になされた場合、譲渡裏書の効力発生時期はいつか。また、それにより振出人は満期後の譲渡(期限後裏書)として、融通手形の抗弁をもって譲受人に対抗できるか。
規範
取立委任裏書を受けて手形を所持する者が、裏書人との間で当該手形の譲渡を受ける合意をした場合であっても、譲渡のための裏書(取立委任文言の抹消や新たな譲渡裏書の記載)がなされない限り、譲渡裏書としての効力は生じない。後日取立委任文言を抹消したとしても、譲渡裏書としての効力が生じるのは当該抹消時からであり、譲渡合意時に遡ることはない。
重要事実
振出人(被上告人)は、D社に対し融通手形として本件約束手形を振り出し、D社はE信金に取立委任裏書をして交付した。その後、D社は倒産し、E信金に対し本件手形を債務の担保として譲渡する合意をしたが、手形上の処理(文言抹消等)は行われなかった。E信金は支払呈示したが拒絶された後、D社の保証人として代位弁済した上告人に対し、取立委任文言を抹消した上で本件手形を白地裏書により譲渡した。
あてはめ
E信金とD社の間での譲渡合意は満期前であったが、取立委任文言の抹消という手形上の処理が行われたのは、支払呈示を経て代位弁済がなされた満期後の昭和56年3月10日であった。規範に照らせば、譲渡裏書としての効力が発生するのはこの抹消時である。したがって、E信金は満期後に隠れた質入裏書(譲渡裏書と同様の性質)を受けたことになり、これは期限後裏書(手形法20条1項但書)に該当する。
結論
本件手形の譲渡は期限後裏書に該当するため、指名債権譲渡の効力しか有しない。よって、振出人は、裏書人D社に対して主張し得た融通手形の抗弁をもって、譲受人であるE信金およびその承継人である上告人に対抗することができる。
実務上の射程
取立委任裏書から譲渡裏書への転換時期を厳格に「手形上の外観の変更時」に求めた点に実務上の意義がある。答案上は、満期を跨いで手形の権利構成が変化する場合に、期限後裏書の成否(手形法20条)を判断する前提として本規範を用いる。
事件番号: 昭和56(オ)1047 / 裁判年月日: 昭和57年3月12日 / 結論: 棄却
統一手形用紙による約束手形の表面の振出日欄と振出地欄との行間に、ゴム印様のもので押捺された約二ミリメートル大の不動文字からなる「裏書譲渡禁ず」との文言が幅一・二センチメートルにわたり横書で記入されているときは、裏書禁止文句の記載があると認めて妨げない。