地代の増額請求に基づく相当賃料額を判断するにあたり、どのような算定方法を採るかの説示もなく、借地法一二条一項所定の諸事情等につき具体的な事実の確定もせず、しかも判示の相当賃料額に直接符合するような証拠又は根拠が見当たらず、かえつて判示の相当賃料額に反し、あるいはこれにそわない趣旨の証拠が存在し、また、挙示の証拠のどの部分を採用し、どの部分を排斥して右の相当賃料額を算定するに至つたかを了知することができない場合には、証拠に基づかないで認定したか又は理由不備の違法がある。
地代の増額請求に基づく相当賃料額の判断に証拠に基づかないで認定したか又は理由不備の違法があるとされた事例
借地法12条,民訴法185条,民訴法395条1項6号
判旨
賃料増額請求権が行使された場合の相当賃料額の算定は、借地法12条1項所定の諸事情を斟酌し、具体的事実関係に即した合理的な方法により行わなければならない。算定方法や基礎事実を明らかにせず、証拠との整合性も欠く認定は、理由不備または証拠によらない事実認定として違法となる。
問題の所在(論点)
賃料増額請求における「相当賃料額」の認定において、裁判所はどのようなプロセスで額を決定すべきか。算定根拠や採用する証拠を明示しないまま賃料額を確定することは許されるか。
規範
賃料増額請求権(借地借家法11条1項、旧借地法12条1項)に基づく相当賃料額を定めるにあたっては、①租税公課の増減、②土地価格の騰貴下落その他の経済事情の変動、③近傍類似の土地の賃料との比較等の諸事情を斟酌し、具体的事実関係に即した合理的な方法により算定しなければならない。裁判所が額を確定する際は、採用した算定手法(スライド法、利回り法、比準法等)および基礎となる具体的数値を判決理由の中で明らかにする必要がある。
重要事実
賃貸人(被上告人)は、土地価格の高騰等を理由に賃借人(上告人)に対し賃料増額を請求した。原審は、不動産鑑定結果や各証拠を総合判断したとして、別表記載の額を相当賃料と認定した。しかし、原審は「近隣賃貸事例を比準すべき」とする賃貸人側の鑑定評価と、「消費者物価指数を標準とすべき」とする賃借人側の鑑定結果のいずれを採用したのか、あるいは独自の算定法を用いたのかを明らかにしていなかった。また、認定された金額は証拠上の数値とも直接符合せず、採用・排斥の論理的根拠も示されていなかった。
事件番号: 昭和37(オ)962 / 裁判年月日: 昭和38年11月22日 / 結論: 破棄差戻
約定賃料額ないし増減請求権行使によつて改訂された具体的賃料額を確定することなく、催告にかかる賃料額が相当賃料額に当ることをもつて、賃貸借解除の前提たる賃料支払の催告を有効とした判断には、審理不尽、理由不備の違法がある。
あてはめ
本件において原判決は、相当賃料額の算定方法(比準法か指数スライド法か等)を全く明らかにしていない。また、算定の基礎となる借地法12条1項所定の具体的諸事情についても事実を確定していない。さらに、認定された金額は提出された鑑定評価書等の証拠と合致しておらず、どの証拠を採用しどの証拠を排斥したのかという判断過程も不明である。このような認定は、合理的な算定方法の提示を欠き、証拠に基づかない事実認定であるといえる。
結論
原判決には理由不備または証拠に基づかない事実認定の違法がある。相当賃料額を算定するため、さらに審理を尽くさせるべく、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
賃料増減額請求事件の答案において、裁判所による賃料確定のプロセスを論じる際の規範となる。実務上は、差額利回り法、スライド法、賃貸事例比較法、積算法などの手法を適切に組み合わせる必要があるが、答案上は「諸事情を斟酌した合理的な方法」という規範を示した上で、事案の具体的な数値(公租公課の額や地価上昇率)を拾い、それらが算定にどう反映されるべきかという論理的過程を明示することが重要となる。
事件番号: 平成5(オ)13 / 裁判年月日: 平成8年7月12日 / 結論: その他
一 賃料増額請求につき当事者間に協議が調わず、賃借人が請求額に満たない額を賃料として支払う場合において、賃借人が従前の賃料額を主観的に相当と認めていないときは、従前の賃料額と同額を支払っても、借地法一二条二項にいう相当賃料を支払ったことにはならない。 二 賃料増額請求につき当事者間に協議が調わず、賃借人が請求額に満たな…
事件番号: 昭和36(オ)300 / 裁判年月日: 昭和37年2月20日 / 結論: 棄却
剣道術練習により生ずる騒音量が保険医療業及び脳神経系統に及ぼす影響についての鑑定のためには、必ずしも医学的学識を有する者のみが鑑定人として選任されなければならないものではない。
事件番号: 昭和34(オ)920 / 裁判年月日: 昭和35年12月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約の解除後に生じた不当利得ないし損害賠償としての賃料相当額の算定において、当事者間に争いのない約定賃料額を基準とすることは適法であり、上告審で初めて主張された統制額等の考慮を欠いたとしても違法ではない。 第1 事案の概要:上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)との間の土地賃貸借契約が解除さ…