一 賃料増額請求につき当事者間に協議が調わず、賃借人が請求額に満たない額を賃料として支払う場合において、賃借人が従前の賃料額を主観的に相当と認めていないときは、従前の賃料額と同額を支払っても、借地法一二条二項にいう相当賃料を支払ったことにはならない。 二 賃料増額請求につき当事者間に協議が調わず、賃借人が請求額に満たない額を賃料として支払う場合において、賃借人が自らの支払額が公租公課の額を下回ることを知っていたときは、賃借人が右支払額を主観的に相当と認めていたとしても、特段の事情のない限り、借地法一二条二項にいう相当賃料を支払ったことにはならない。
一 賃借人が主観的に相当と認めていない額の賃料と借地法一二条二項にいう相当賃料 二 賃借人が公租公課の額を下回ることを知りながら支払う賃料と借地法一二条二項にいう相当賃料
借地法12条2項
判旨
賃料増額請求に対し賃借人が従前の賃料を支払う場合、賃借人がそれを主観的に相当と認めていないとき、または支払額が公租公課を下回ることを知りつつ支払っているときは、特段の事情のない限り債務の本旨に従った履行とはいえず、債務不履行となり得る。
問題の所在(論点)
賃料増額請求を受けた賃借人が、増額を争いつつ従前の賃料を支払っている場合において、その支払が債務の本旨に従った履行(債務不履行の否定)として認められるための要件が問題となる。
規範
借地借家法11条2項(旧借地法12条2項)にいう賃借人が「相当ト認ムル」額の支払とは、原則として賃借人が主観的に相当と認める額を指すが、以下の場合は債務の本旨に従った履行とは認められない。①賃借人が従前の賃料額を主観的に相当と認めていないとき。②賃借人の支払額が目的物の公租公課を下回ることを賃借人が知っているとき(特段の事情がある場合を除く)。
重要事実
賃貸人Xらは、賃借人Yに対し、本件土地の賃料を月額6万円から12万円に増額する請求をした。当時の適正賃料は12万円であり、公租公課(年約74万円)が従前の賃料(年72万円)を上回る状態であった。Yは増額請求後も月額6万円を支払い続けたため、Xらは1週間以内の不足分支払を催告した上で、本件賃貸借契約の解除を通知し、建物収去土地明渡し等を求めた。
あてはめ
原審は、賃借人が従前の賃料を支払う限り、主観的に相当と認める賃料を支払ったものとして債務不履行責任を免れると判断した。しかし、本件では、Yが月額6万円を「主観的に相当」と認めていたか、また、その額が公租公課を下回っていることを知っていたかという点について審理が尽くされていない。有償の双務契約において公租公課を下回る賃料が不相当なのは明らかであり、これを知りつつ不足分を支払わないことは、同条項による賃借人保護の趣旨(裁判確定までの危険回避)を逸脱する。
結論
Yが主観的に相当と認めていない場合や、公租公課割れを認識していた場合には、従前の賃料の提供があっても債務不履行となり得る。原審はこれらの事実関係を確定せずに債務不履行を否定した点で違法があり、差し戻しを免れない。
実務上の射程
賃料増額請求における「相当と認める額」の不払いによる解除の可否を論じる際に用いる。特に、従前の賃料を払っていれば直ちに安泰というわけではなく、公租公課との比較や賃借人の認識(主観的態様)が考慮要素となる点に注意が必要である。答案上は、信頼関係破壊の法理とセットで論じることが多い。
事件番号: 平成2(オ)1444 / 裁判年月日: 平成5年2月18日 / 結論: 破棄自判
賃借人の供託した賃料額が、後日裁判で確認された額の約五・三分の一ないし約三・六分の一であり、同人において隣地の賃料に比べはるかに低額であることを知っていた場合であっても、右額が従前賃料額を下回らず、かつ、同人が主観的に相当と認める額であるときは、右供託賃料額は、賃借人が賃借土地に係る公租公課の額を下回ることを知っていた…
事件番号: 昭和42(オ)851 / 裁判年月日: 昭和43年6月27日 / 結論: 棄却
旧借地法第一二条(昭和四一年法律第九三号による改正前のもの)による地代増額請求権の行使による適正額の増額の効果は、増額請求の意思表示が相手方に到達した時に発生するものと解すべく、現行借地法第一二条第二、第三項が新設されても同条項施行前の増額請求については、同様に解すべきである。
事件番号: 昭和44(オ)1165 / 裁判年月日: 昭和45年2月27日 / 結論: 棄却
賃貸人が、借地上の賃借人所有の建物に対し占有移転禁止等の仮処分を執行したことにより、賃借人の借地の使用収益を妨げたとしても、そのために借地法一二条に基づく賃料増額請求が許されなくなるものではない。